chapter14:契約
「ふむ。そんな事がのう…」
ラーレが2年前のアルケニア城崩壊について話すとエントは難しい顔をした。
「大変だったんだね~」
「大変どころではないぞい、若エルフ。その発光する物体は恐らく『神』じゃろうし」
「そんな…あれが神だなんて」
万物を創造したと言われる神がいともたやすく自分たちを屠ろうとした。よさそうだと言っては無断で他人の体を乗っ取りもした。そんなのが自分たちの『神』だという。
「わたしの信じてきたものは何だったんだろ…」
「神と言えども万能ではないと言う事かのう。もしくは長い年月をかけて変化した、とかだな」
ふぅむ、とラーレが悩む。
「さて、と。では若エルフよ。媒体は持っているな?」
「ええ。ドライアードと同じ、黄緑の札があまってるわ」
「結構」
シスターは腰のバッグから黄緑色の札を一枚取り出すとエントに向けて差し出した。
「木々を束ね、森に君臨せし精霊、木々の精霊王エントよ。その力持って我の行く先に生命の息吹を」
精霊語で契約の言葉を紡ぐ。
「思慮深き汝の心我に貸し与えたまえ」
目の前の老人の姿をしたエントは黄緑色の光へと分解され、シスターが手に持つ札へと残らず吸収された。
「ふう。契約なんかしたらおなかすいちゃった」
ため息と共にその場に座り込むシスター。額には大粒の汗が浮かんでいる。相当な自身の魔力を消費するらしかった。
ルビーの名を出すとすぐさま王城の豪華な待合室へと通され、「しばしお待ちください」と案内した衛兵が慌てて部屋を出て行った。
「すごい…」
「いったいどう言う人なんだろう…」
ユキもメルベールも、言うほどルビーと付き合いが無いのに改めて気づいた。そんな二人を見て佳純がくすりと笑った。
「ホント、相変わらずなのね~あの人は」
「あの人、ってルビーさん?」
「そうよ。私とルビー、そしてサフィ他数人で王立の研究機関でチームを組んだ時の事なんだけど…」
ルビーはどんな人とでもすぐに打ち解け、なぜかはわからないがかなり古くから知っているようなそんな気にさせられると研究員の間で言われていた、と話して聞かせた。
「へぇ~。そういう人だったんだ…」
「それとね~…」
ふふふ、とわざと含んだ笑いをした佳純が続けた。
「年下の女の子からソウトウ好意もたれてたわね、ルビーは」
でもだ~れがアタックしてもやんわ~りかわしてくれてたわね、面白くないとため息をついた。
「ユキちゃんはライバルがいっぱいだね」
あらあら、とメルベールがユキに突っ込む。
「うぅ…なんでみんなにばれてるかなぁ…」
顔を真っ赤にしてうつむくユキ。どうやらメルベール以外は知らないだろうと思っていたらしい。
「そりゃ…ねえ。あたしは教会に来た時のこと見てるし…」
「わたしは聞いたしねぇ…」
「なんとなくそうなのかな、って思ってた」
3人が口々に理由(?)を述べた。
「もう…っ」
こんこん、と手前の扉がノックされた。
「失礼します。謁見の準備が出来ました。ご案内いたします」
先ほどの衛兵が再び姿を現した。
ラーレが2年前のアルケニア城崩壊について話すとエントは難しい顔をした。
「大変だったんだね~」
「大変どころではないぞい、若エルフ。その発光する物体は恐らく『神』じゃろうし」
「そんな…あれが神だなんて」
万物を創造したと言われる神がいともたやすく自分たちを屠ろうとした。よさそうだと言っては無断で他人の体を乗っ取りもした。そんなのが自分たちの『神』だという。
「わたしの信じてきたものは何だったんだろ…」
「神と言えども万能ではないと言う事かのう。もしくは長い年月をかけて変化した、とかだな」
ふぅむ、とラーレが悩む。
「さて、と。では若エルフよ。媒体は持っているな?」
「ええ。ドライアードと同じ、黄緑の札があまってるわ」
「結構」
シスターは腰のバッグから黄緑色の札を一枚取り出すとエントに向けて差し出した。
「木々を束ね、森に君臨せし精霊、木々の精霊王エントよ。その力持って我の行く先に生命の息吹を」
精霊語で契約の言葉を紡ぐ。
「思慮深き汝の心我に貸し与えたまえ」
目の前の老人の姿をしたエントは黄緑色の光へと分解され、シスターが手に持つ札へと残らず吸収された。
「ふう。契約なんかしたらおなかすいちゃった」
ため息と共にその場に座り込むシスター。額には大粒の汗が浮かんでいる。相当な自身の魔力を消費するらしかった。
ルビーの名を出すとすぐさま王城の豪華な待合室へと通され、「しばしお待ちください」と案内した衛兵が慌てて部屋を出て行った。
「すごい…」
「いったいどう言う人なんだろう…」
ユキもメルベールも、言うほどルビーと付き合いが無いのに改めて気づいた。そんな二人を見て佳純がくすりと笑った。
「ホント、相変わらずなのね~あの人は」
「あの人、ってルビーさん?」
「そうよ。私とルビー、そしてサフィ他数人で王立の研究機関でチームを組んだ時の事なんだけど…」
ルビーはどんな人とでもすぐに打ち解け、なぜかはわからないがかなり古くから知っているようなそんな気にさせられると研究員の間で言われていた、と話して聞かせた。
「へぇ~。そういう人だったんだ…」
「それとね~…」
ふふふ、とわざと含んだ笑いをした佳純が続けた。
「年下の女の子からソウトウ好意もたれてたわね、ルビーは」
でもだ~れがアタックしてもやんわ~りかわしてくれてたわね、面白くないとため息をついた。
「ユキちゃんはライバルがいっぱいだね」
あらあら、とメルベールがユキに突っ込む。
「うぅ…なんでみんなにばれてるかなぁ…」
顔を真っ赤にしてうつむくユキ。どうやらメルベール以外は知らないだろうと思っていたらしい。
「そりゃ…ねえ。あたしは教会に来た時のこと見てるし…」
「わたしは聞いたしねぇ…」
「なんとなくそうなのかな、って思ってた」
3人が口々に理由(?)を述べた。
「もう…っ」
こんこん、と手前の扉がノックされた。
「失礼します。謁見の準備が出来ました。ご案内いたします」
先ほどの衛兵が再び姿を現した。
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chapter15:スカーレット家別荘
「わかった。そなたらのスカーレット邸での探索を許可しよう」
赤い絨毯の先、高段にある玉座へと座したままエメラルド王は容易く回答を出した。
「王!謁見待ちの民を差し置いたばかりかそのような事まで!」
「黙らんか。俺がいいと言ったらいいのだ。それとも何か、俺の采配に不服でもあるのか?」
「い、いえ決してそのような事は…」
瞬間的に明らかな不快を示した補佐役が一瞬にして静まり返る。
「あの、王様」
ユキが恐る恐る声を出す。
「ん。何でも言ってみろ」
先ほどのドスの聞いた声と打って変わって猫なで声で王は答えた。
「はい。ルビーってどう言う人なんですか?」
「それは君たちの方がよくわかっているんじゃないのか?」
「いえ…実は」
ユキは大まかに2年前の事、砂漠であった事を話した。
「そうか。それで分からなくなっているのか」
なるほどな、と納得した表情の王。
「ひとつだけ。2年前に君が見たルビーもつい最近見たルビーも中心の部分は変わっていない。身近な人を守りたい、助けたい。そういう気持ちが誰よりも強い、そんなヤツだ。だから自分が何を知ったかを君に知ってもらい、その上で同行するしないを決めて欲しいんじゃないかな?」
「王、僕からも質問よろしいでしょうか」
次は朔良が名乗りを上げる。
「何でも」
「感謝いたします。蒼支について知っていれば伺いたいのですが」
「あのルビーと一緒に倒れていた女だな。あやつならルビーの調査の手伝いをしていたぞ。側近のような感じにも見えるがあやつはあやつで調べたい事があるとか言ってたな。内容については知らんが」
「ありがとうございます」
(多分…アレだろうな)
蒼支の調べたいものについては若干思い当たる事がある。
「スカーレット邸へはこちらから使いを出しておく。ああそれと。俺に用があるときはいつでも来い」
4人は儀礼的な一礼をすると、謁見の間を後にした。
スカーレット邸、いわゆるシェイドタウンにおけるルビーの家は王城から東へ出てすぐの場所にあった。小高い丘の上に3階建ての大きな屋敷だ。
「うわ~…すっごい広い…」
「どれだけあの王が信頼しているかがわかりますね」
ユキと朔良が感心した。佳純が感心している二人をよそに扉をノックすると執事風の老人がうやうやしく出迎えてくれた。
「お話は聞いておりますよ。ささ、どうぞこちらへ」
老人は一向を応接室へと通した。
「メルベール?どうしたのさっきから黙って…」
「えっ?あ、うんなんでもない」
(なんだろう…何か『大きな存在』を感じる…)
シェイドタウンに入ってからずっと、メルベールは何者かの存在を感じていた。
(精霊…よねこの力の流れは。でもこんなに不安定な力なんて…)
あるときは全てを飲み込むかのように強く、またあるときは感じ取るのがやっとなくらい弱い。朔良は感じ取っていないように思えたので話をするのもはばかられた。
「研究室、でよろしかったでしょうか」
老人が立ち止まった。
「ええ。お願いするわ」
佳純のその言葉に老人は頷く。
「僕は蒼支の部屋に案内してもらえるかな」
「蒼支様の…ですか」
「彼女は僕の兄妹なんだ」
「そうでしたか。ではここで少しお待ちを」
朔良を静止して残った3人を研究室へと案内すべく老人は再び歩きだした。
赤い絨毯の先、高段にある玉座へと座したままエメラルド王は容易く回答を出した。
「王!謁見待ちの民を差し置いたばかりかそのような事まで!」
「黙らんか。俺がいいと言ったらいいのだ。それとも何か、俺の采配に不服でもあるのか?」
「い、いえ決してそのような事は…」
瞬間的に明らかな不快を示した補佐役が一瞬にして静まり返る。
「あの、王様」
ユキが恐る恐る声を出す。
「ん。何でも言ってみろ」
先ほどのドスの聞いた声と打って変わって猫なで声で王は答えた。
「はい。ルビーってどう言う人なんですか?」
「それは君たちの方がよくわかっているんじゃないのか?」
「いえ…実は」
ユキは大まかに2年前の事、砂漠であった事を話した。
「そうか。それで分からなくなっているのか」
なるほどな、と納得した表情の王。
「ひとつだけ。2年前に君が見たルビーもつい最近見たルビーも中心の部分は変わっていない。身近な人を守りたい、助けたい。そういう気持ちが誰よりも強い、そんなヤツだ。だから自分が何を知ったかを君に知ってもらい、その上で同行するしないを決めて欲しいんじゃないかな?」
「王、僕からも質問よろしいでしょうか」
次は朔良が名乗りを上げる。
「何でも」
「感謝いたします。蒼支について知っていれば伺いたいのですが」
「あのルビーと一緒に倒れていた女だな。あやつならルビーの調査の手伝いをしていたぞ。側近のような感じにも見えるがあやつはあやつで調べたい事があるとか言ってたな。内容については知らんが」
「ありがとうございます」
(多分…アレだろうな)
蒼支の調べたいものについては若干思い当たる事がある。
「スカーレット邸へはこちらから使いを出しておく。ああそれと。俺に用があるときはいつでも来い」
4人は儀礼的な一礼をすると、謁見の間を後にした。
スカーレット邸、いわゆるシェイドタウンにおけるルビーの家は王城から東へ出てすぐの場所にあった。小高い丘の上に3階建ての大きな屋敷だ。
「うわ~…すっごい広い…」
「どれだけあの王が信頼しているかがわかりますね」
ユキと朔良が感心した。佳純が感心している二人をよそに扉をノックすると執事風の老人がうやうやしく出迎えてくれた。
「お話は聞いておりますよ。ささ、どうぞこちらへ」
老人は一向を応接室へと通した。
「メルベール?どうしたのさっきから黙って…」
「えっ?あ、うんなんでもない」
(なんだろう…何か『大きな存在』を感じる…)
シェイドタウンに入ってからずっと、メルベールは何者かの存在を感じていた。
(精霊…よねこの力の流れは。でもこんなに不安定な力なんて…)
あるときは全てを飲み込むかのように強く、またあるときは感じ取るのがやっとなくらい弱い。朔良は感じ取っていないように思えたので話をするのもはばかられた。
「研究室、でよろしかったでしょうか」
老人が立ち止まった。
「ええ。お願いするわ」
佳純のその言葉に老人は頷く。
「僕は蒼支の部屋に案内してもらえるかな」
「蒼支様の…ですか」
「彼女は僕の兄妹なんだ」
「そうでしたか。ではここで少しお待ちを」
朔良を静止して残った3人を研究室へと案内すべく老人は再び歩きだした。
chapter16:再開、そして…
研究室、といわれて通された部屋は屋敷の地下にある大きな蔵書室だった。奥に机が3台ある以外は広大な部屋のほとんどが本棚である。
「うわ~…よくこんな集めたわね」
佳純が純粋に感心する。
「アルケニアの王立研究所からの流れ物がほとんどですよ」
と老執事が答える。元々はスカーレット・アジュール両家の者がストレシェイドへ留学する際に使用する屋敷だったから元々書物を集める目的もあったようだ。
「ここより多い蔵書は…多分この国の王立図書館くらいでしょうね」
ではこれを、と老執事が佳純に紙切れを手渡す。
「それがルビー様がこの2年で調べた物です」
「ありがとう」
「では、私目はあちらの坊ちゃまを案内してきますので」
うやうやしく一礼をすると地下室の階段を駆け上がって行った。
「どれどれ…って何を調べてたのよ!」
紙切れに目を通した途端驚愕から大きな声を出す佳純。
「何が、書いてあるんですか?」
佳純は無言で質問したユキに紙切れを手渡す。
「ええっと…『精神の融合』、『力の代償』、『スキアヴォーナの製造過程』、『神と悪魔の起こした戦争』…」
きょとん、とするユキ。それだけでは彼女には意味がわからない。
「佳純さん、一体どういう…」
「いくらでも考えられるわ。でも多分超個人的な理由で今の天使と悪魔の競り合いに決着をつける事になると思うわ。それも、自分の身もまったく省みずにね」
「それって…自分が死んでも果たしたい何か…つまりそれはサファイアさんの救出なんだろうけど…をしたいって事?」
「そうかもね。そしてこれも多分だけど『真の敵』ってのも分かったみたいね、あの馬鹿は」
「でもそれじゃ…あんなふうになってしまった説明が…」
「う~ん…それはわかんないけど…」
地下室へと降りてくる足音が聞こえた。
「あれっ…この精霊力は…」
足音は階段を降りきるとメルベールの方へ向かってきた。
「メル!」
「お兄ちゃん!?」
「ドワーフ族にも伝承されていなかったのか?」
そうみたい、と蒼支は深いため息をついた。砂漠の地下に住むドワーフ族の集落からの帰り道。ユキであったあのオアシスで休憩をしていた時の事。ルビーは終始無言の蒼支に対して質問した。
「なんかもうどこにもないんじゃ~って思えてきた」
もうがっかりだよ~と無言で訴えるように座ったまま空を見上げる蒼支。背もたれにしている木の大きな葉がちょうど日光を遮ってギラギラと照りつける太陽を直視することは出来なかった。
「あるのかどうかもわからないからな」
「うん…わかってはいるんだけどね~」
蒼支が探している物、それはセクエンス、と呼ばれる半ば伝説と化した一振りの剣だ。古代文明の書物の中にその記述はあった。効果も伝説とたがわないのだろう、と確認した。
「確かに、あの剣があれば君は今よりずっと強くなるんだろうな」
古代、ある実験が行なわれた。その時実験用にと作成されたのがそのセクエンスだった。
「対になるという杖の方もあわせて行方不明なんだ…スキアの様に密かに伝承されている可能性もあるな」
ふむ、と蒼支はルビーの方を見る。
「そういえばさ、なんでスキアの所在わかったわけ?」
「それはな…」
話の途中、ルビーが急に黙る。
「え?どうした…」
蒼支はルビーの見ている方に視線を向けると同様に黙った。
「サフィ…」
そこには、長い髪をストレートに下ろし、砂漠越えの装備をしたサファイアが立っていた。
「うわ~…よくこんな集めたわね」
佳純が純粋に感心する。
「アルケニアの王立研究所からの流れ物がほとんどですよ」
と老執事が答える。元々はスカーレット・アジュール両家の者がストレシェイドへ留学する際に使用する屋敷だったから元々書物を集める目的もあったようだ。
「ここより多い蔵書は…多分この国の王立図書館くらいでしょうね」
ではこれを、と老執事が佳純に紙切れを手渡す。
「それがルビー様がこの2年で調べた物です」
「ありがとう」
「では、私目はあちらの坊ちゃまを案内してきますので」
うやうやしく一礼をすると地下室の階段を駆け上がって行った。
「どれどれ…って何を調べてたのよ!」
紙切れに目を通した途端驚愕から大きな声を出す佳純。
「何が、書いてあるんですか?」
佳純は無言で質問したユキに紙切れを手渡す。
「ええっと…『精神の融合』、『力の代償』、『スキアヴォーナの製造過程』、『神と悪魔の起こした戦争』…」
きょとん、とするユキ。それだけでは彼女には意味がわからない。
「佳純さん、一体どういう…」
「いくらでも考えられるわ。でも多分超個人的な理由で今の天使と悪魔の競り合いに決着をつける事になると思うわ。それも、自分の身もまったく省みずにね」
「それって…自分が死んでも果たしたい何か…つまりそれはサファイアさんの救出なんだろうけど…をしたいって事?」
「そうかもね。そしてこれも多分だけど『真の敵』ってのも分かったみたいね、あの馬鹿は」
「でもそれじゃ…あんなふうになってしまった説明が…」
「う~ん…それはわかんないけど…」
地下室へと降りてくる足音が聞こえた。
「あれっ…この精霊力は…」
足音は階段を降りきるとメルベールの方へ向かってきた。
「メル!」
「お兄ちゃん!?」
「ドワーフ族にも伝承されていなかったのか?」
そうみたい、と蒼支は深いため息をついた。砂漠の地下に住むドワーフ族の集落からの帰り道。ユキであったあのオアシスで休憩をしていた時の事。ルビーは終始無言の蒼支に対して質問した。
「なんかもうどこにもないんじゃ~って思えてきた」
もうがっかりだよ~と無言で訴えるように座ったまま空を見上げる蒼支。背もたれにしている木の大きな葉がちょうど日光を遮ってギラギラと照りつける太陽を直視することは出来なかった。
「あるのかどうかもわからないからな」
「うん…わかってはいるんだけどね~」
蒼支が探している物、それはセクエンス、と呼ばれる半ば伝説と化した一振りの剣だ。古代文明の書物の中にその記述はあった。効果も伝説とたがわないのだろう、と確認した。
「確かに、あの剣があれば君は今よりずっと強くなるんだろうな」
古代、ある実験が行なわれた。その時実験用にと作成されたのがそのセクエンスだった。
「対になるという杖の方もあわせて行方不明なんだ…スキアの様に密かに伝承されている可能性もあるな」
ふむ、と蒼支はルビーの方を見る。
「そういえばさ、なんでスキアの所在わかったわけ?」
「それはな…」
話の途中、ルビーが急に黙る。
「え?どうした…」
蒼支はルビーの見ている方に視線を向けると同様に黙った。
「サフィ…」
そこには、長い髪をストレートに下ろし、砂漠越えの装備をしたサファイアが立っていた。
chapter17:トゥルー・ブルー
「サフィ…」
サファイアの姿を確認すると、ルビーはその場で硬直した。
「久しぶりね、ルビー。5年ぶり?6年かな」
(本当にサフィなのか…あの発光体はどうなった…)
「心配しないで。わたしはわたし。誰にも支配も掌握もされていないわ」
背中のリュックを下ろすと腕組みをしてサファイアが淡々と答えた。
「そうか、よかっ…」
「ルビー。スキアヴォーナをわたしに渡して頂戴」
またもルビーの言葉を遮って淡々とサファイアが用件を言う。
「スキアだと!それを渡せと…」
「そうよルビー。貴方が持っているんでしょう」
「持ってはいる。しかしもう役にはたたないぞ」
その発言に眉をひそめるサファイア。
「どう言う事?」
「2年前のあの日。壊れてしまったんだ。だからもう武器として振るう事も出来ない」
確かにルビーの背にはスキアらしきものが背負われている。が、それは刀身を以前のようにむき出しでなく硬めの布でぐるぐるに巻かれていた。
「そう。ならいいわ」
腕を解くと足元のリュックを拾い、ルビーに背を向けるサファイア。
「待てよ、一体どうしたんだ、サフィ。お前やっぱりまだ…」
「それはないわ。保障する。そうだルビー、わたしと一緒に来ない?今ね、『友人』に協力しているの。ルビーならきっと力になってくれると…」
「断る」
今度はルビーが静かに、だが強く発言を遮る。
「サフィ、あの発光する物体は『神』だな」
「…ええ、そうよ」
ルビーがこの2年でたどり着いた結論をサファイアは簡単に肯定した。
「遠い過去に何をしたかも知っているな」
「知っているわ」
「つまり、サフィの言う友人とは『神』でその計画みたいなのに協力している、とそう言う事だな」
「…ええ」
サファイアは目を伏せながらため息交じりに答えた。
「お前は自分や自分の周りの人間が全て滅んでもいいと言うのか」
「ずいぶん世界的な視点ね、ルビー。わたしはわたしの一番欲しい物を与えてくれなかった世界に未練も興味もないわ。それと、個人的な視点から言えば『神』に協力するのは賛成なの」
「サフィ…いつからそんな…」
「いつから?愚問ね。生まれた時からこうなる事は決まっていたのよ」
もどかしげに声を荒げるサファイア。
「そんな事はない!」
ルビーもつられて声を荒げた。
「あるわ!」
「俺が止めろ、と言ってもやめないようだな」
「やめないわ」
「なら…今ここでお前を…」
ルビーの手にブリューナクが握られた。
「殺すと言うの?貴方が?わたしを」
「ああ。馬鹿な妹の始末を兄がつける。兄妹として普通の事だろ」
「それが嫌いだって言ってるんじゃない!」
サファイア空中に両手で複雑な紋様を描くと…
「!!」
その紋様が一瞬光ったかと思うと次の瞬間、水の精霊王<クラーケン>が出現した。一度見たことがあるその姿を見間違うはずがなかった。
「やはり力に出来ていたか」
「当然ね。それにもう一つ面白いものを手に入れたけど…それはまた今度お披露目するわ」
サファイアはクラーケンに飛び乗った。
「貴方がもし、今武器を捨てて残りの人生を研究でもしてゆっくり暮らしていくと約束するなら、命まではとらないわ。でももし歯向かおうと言うのなら…次は容赦しないから」
「まて!サフィまだ話は…」
ルビーの話が終わらないうちにサファイアはクラーケンともども空気に同化するように掻き消えてしまった。
「く…っ。俺はどうすることも出来ないのか、サフィー!!!」
ルビーの絶叫はオアシスの泉の水面を僅かに揺らせただけだった。
サファイアの姿を確認すると、ルビーはその場で硬直した。
「久しぶりね、ルビー。5年ぶり?6年かな」
(本当にサフィなのか…あの発光体はどうなった…)
「心配しないで。わたしはわたし。誰にも支配も掌握もされていないわ」
背中のリュックを下ろすと腕組みをしてサファイアが淡々と答えた。
「そうか、よかっ…」
「ルビー。スキアヴォーナをわたしに渡して頂戴」
またもルビーの言葉を遮って淡々とサファイアが用件を言う。
「スキアだと!それを渡せと…」
「そうよルビー。貴方が持っているんでしょう」
「持ってはいる。しかしもう役にはたたないぞ」
その発言に眉をひそめるサファイア。
「どう言う事?」
「2年前のあの日。壊れてしまったんだ。だからもう武器として振るう事も出来ない」
確かにルビーの背にはスキアらしきものが背負われている。が、それは刀身を以前のようにむき出しでなく硬めの布でぐるぐるに巻かれていた。
「そう。ならいいわ」
腕を解くと足元のリュックを拾い、ルビーに背を向けるサファイア。
「待てよ、一体どうしたんだ、サフィ。お前やっぱりまだ…」
「それはないわ。保障する。そうだルビー、わたしと一緒に来ない?今ね、『友人』に協力しているの。ルビーならきっと力になってくれると…」
「断る」
今度はルビーが静かに、だが強く発言を遮る。
「サフィ、あの発光する物体は『神』だな」
「…ええ、そうよ」
ルビーがこの2年でたどり着いた結論をサファイアは簡単に肯定した。
「遠い過去に何をしたかも知っているな」
「知っているわ」
「つまり、サフィの言う友人とは『神』でその計画みたいなのに協力している、とそう言う事だな」
「…ええ」
サファイアは目を伏せながらため息交じりに答えた。
「お前は自分や自分の周りの人間が全て滅んでもいいと言うのか」
「ずいぶん世界的な視点ね、ルビー。わたしはわたしの一番欲しい物を与えてくれなかった世界に未練も興味もないわ。それと、個人的な視点から言えば『神』に協力するのは賛成なの」
「サフィ…いつからそんな…」
「いつから?愚問ね。生まれた時からこうなる事は決まっていたのよ」
もどかしげに声を荒げるサファイア。
「そんな事はない!」
ルビーもつられて声を荒げた。
「あるわ!」
「俺が止めろ、と言ってもやめないようだな」
「やめないわ」
「なら…今ここでお前を…」
ルビーの手にブリューナクが握られた。
「殺すと言うの?貴方が?わたしを」
「ああ。馬鹿な妹の始末を兄がつける。兄妹として普通の事だろ」
「それが嫌いだって言ってるんじゃない!」
サファイア空中に両手で複雑な紋様を描くと…
「!!」
その紋様が一瞬光ったかと思うと次の瞬間、水の精霊王<クラーケン>が出現した。一度見たことがあるその姿を見間違うはずがなかった。
「やはり力に出来ていたか」
「当然ね。それにもう一つ面白いものを手に入れたけど…それはまた今度お披露目するわ」
サファイアはクラーケンに飛び乗った。
「貴方がもし、今武器を捨てて残りの人生を研究でもしてゆっくり暮らしていくと約束するなら、命まではとらないわ。でももし歯向かおうと言うのなら…次は容赦しないから」
「まて!サフィまだ話は…」
ルビーの話が終わらないうちにサファイアはクラーケンともども空気に同化するように掻き消えてしまった。
「く…っ。俺はどうすることも出来ないのか、サフィー!!!」
ルビーの絶叫はオアシスの泉の水面を僅かに揺らせただけだった。
chapter18:少年の怒り
「思い出したんですよ、シェイドタウンにスカーレット家別荘があったって」
出されたティーカップを持ち上げながらホーリーが言った。地下室を一旦離れ、応接室へと通された一行に老執事がお茶を出してくれた。
「それでここにいたのね」
佳純がどっとソファに腰を落ち着ける。渡されたメモについてあれこれと思考をめぐらせていたのだが書庫を少し調べてみないと結論が出せないとわかり、めぐらせるのをやめたのだ。
「ええ。丁度窓から貴方達が見えたのでね」
「アンタも一緒だったとはね」
リーシェルが少し険しい表情をした。視線は朔良に向けられている。
「よくわからないけど生きてろって事らしいよ」
朔良はかなり敵意の篭った視線を受けつつも飄々と答えた。
「まぁまぁ、お兄ちゃん」
メルベールが腕を掴んで今にも掴みかかりそうなリーシェルを静止する。
「でもここでルビーは何を調べていたんでしょう」
「何とも言えないわね~。予測はつくけど。私はまずここの書庫を色々見て回りたいところなんだけど…」
「うへ。本読むとかカンベンな」
苦手なんだ、とリーシェル。
「安心して。調査は私がひとりでやるわ」
「よかった~。んじゃ僕は会場でも見てこようかな」
「会場って…大会の?」
「うん。最初は参加しようとか思ってたけど皆と会えたからその必要もなくなったし。ここにとめてもらうわけにも行かないだろうから宿も探さないとね」
「じゃ、ここに残るのはわたしと…」
「僕もだ。蒼支の部屋に案内してもらわないと」
「OK。じゃ宿が決まったら誰か連絡をお願いね」
ユキ、メルベール、ホーリーがリーシェルと共に部屋を出る。応接室は丁度玄関のすぐ脇にあったから広い屋敷でも迷う事はない。
「これが別荘とか…すごいんだなぁ」
「うん…」
リーシェルとユキがルビーの生まれについて感想を漏らす。
「今更、ですけどね。わたしに言わせれば。幾度か話したでしょう、王立の研究機関に在籍していたとか」
とホーリー。
「そうだけど…でも聞くのと見るのじゃ…」
ホーリーが大きな扉のノブに手をかけて力いっぱい引く。扉はギギィーと軋んだ音を立てて開け放たれた。
「さ、まずは宿の確保を。ここは曲がりなりにも一国の首都。宿探すのも一苦労なはずです」
考えるのは後、と三人を促して外へ出ると視線の先に人影が見えた。
「ルビーさん!?」
リーシェルが叫ぶ。目をマスクで覆い、白銀の鎧を着てはいてもあの返り血を多量に浴びたような燃える紅い髪を伸ばしている人は彼しかいない。その姿を見、ユキは硬直した。
「…とあの時の女剣士!」
「…」
ルビーは無言で四人のすぐ前まで進む。
「お久しぶり、ですね」
ホーリーが言う。
「ああ」
「る、ルビー…」
ユキがおずおずと尋ねる。
「やっぱりあたし、あなたと一緒に…」
「断る」
オアシスで会った時と同じくユキを拒絶するルビー。
「言ったはずだ。俺の意思を理解出来ない者の同行はさせぬと。それとも判った上での申し出か?」
「違う…わ。でもね…でも、でも…っ」
両方の拳をぎゅっと握り締めてうつむくユキ。
「ルビーさん、だよな。いったいどうしたってんだ?」
怪訝そうな顔でリーシェルが割ってはいる。
「別に何も。邪魔だから失せろと言っているだけだ」
「なんだって!」
淡々としているルビーにリーシェルはかちんと来た。リーシェルは飄々とした物言いが嫌いなようだ。
「この先弱い者に用はない。大体激昂しているという事は図星か?」
「この…っ…いくらアンタでも言っていいことと悪い事が…」
身を乗り出してルビーに掴みかかろうとしたリーシェルをユキが静止する。
「…ユキさん?」
ユキはリーシェルの袖口を掴んだまま、ふるふると首を横に振った。
「…いいの」
「でも…」
「いいの!」
ユキは語気こそ荒げたが、目を涙でにじませていた。
「アンタ…わかってるんだろ!ユキさんの気持ち!それを…どうして傷つけるような事を言うんだ!!」
「感情などとうの昔に捨て去った」
「この…っ言わせておけば…っ」
ユキが掴んでいない方の手を伸ばそうとするが、そちらはメルベールが腕にしがみついた。
「駄目!お兄ちゃん落ち着いて!!」
(これ以上は…だめだよお兄ちゃん!!)
メルベールにはリーシェルに宿る『こころの精霊達』の様子が伺えた。リーシェルは今『怒りの精霊<ヒューリー>』に精神を支配されそうになっていた。それは『狂戦士化』を生み、一切を破壊し、また確実に自らも死にいたる。
「ルビー、これだけは覚えておいて」
ユキが涙目で訴える。
「あたしは、ううん。あたしだけじゃない。メルベールもリーシェル君もホーリーさんも。二年前出会った人達はみんな貴方を信じてるわ」
「…」
訴えにルビーは何の反応も示さなかった。
「ちょっと、いいかな…」
小声でルビーの隣にいた蒼支が話しかける。
「何だ?」
「えっと…朔良がこの屋敷の中にいるみたいなんだけど…。わかるの、わたしには朔良が近くにいると…」
「行って来るといい」
「うん…」
ユキ等四人の脇を抜け、蒼支は屋敷の中へと入っていった。
「行こう、ユキさん」
ようやく力を抜いたリーシェルが言った。
「でも…」
「いいんだ。今目の前にいるルビーさんは二年前のルビーさんじゃない。話してわかる人じゃない」
「そんな事…」
「いいから。行こう」
二人の制止を振り切ってリーシェルは門へ向かって歩き出した。
「じゃあ、行くね」
メルベールがユキを促して自らもリーシェルの後を追った。
「ルビー。今中で佳純さんが色々調べ物をしています。わたしはそれ如何によって決めます」
「そうしてくれ、と言ってるのだがな。奴らにも」
貴方にしては言葉足らずですよ、まぁあえてそうしてるんでしょうけど、とホーリーが苦笑いをした。
「ああ、それと。今この世界に現れている『天使』達はどこかおかしい。あなたは何か掴んでいますか?」
「奴らこそ敵だ。文献によるとこの世界の事態を引き起こしているのは神自身だという事だからな」
「なるほど…それなら納得できます。それともう一つ。その背中の物は…」
「スキアヴォーナだ。2年前のあの日壊れてしまったがな」
「なるほど。ではわたしも行きます」
「ああ」
軽く一礼をし、ホーリーはリーシェル達の後を追った。
出されたティーカップを持ち上げながらホーリーが言った。地下室を一旦離れ、応接室へと通された一行に老執事がお茶を出してくれた。
「それでここにいたのね」
佳純がどっとソファに腰を落ち着ける。渡されたメモについてあれこれと思考をめぐらせていたのだが書庫を少し調べてみないと結論が出せないとわかり、めぐらせるのをやめたのだ。
「ええ。丁度窓から貴方達が見えたのでね」
「アンタも一緒だったとはね」
リーシェルが少し険しい表情をした。視線は朔良に向けられている。
「よくわからないけど生きてろって事らしいよ」
朔良はかなり敵意の篭った視線を受けつつも飄々と答えた。
「まぁまぁ、お兄ちゃん」
メルベールが腕を掴んで今にも掴みかかりそうなリーシェルを静止する。
「でもここでルビーは何を調べていたんでしょう」
「何とも言えないわね~。予測はつくけど。私はまずここの書庫を色々見て回りたいところなんだけど…」
「うへ。本読むとかカンベンな」
苦手なんだ、とリーシェル。
「安心して。調査は私がひとりでやるわ」
「よかった~。んじゃ僕は会場でも見てこようかな」
「会場って…大会の?」
「うん。最初は参加しようとか思ってたけど皆と会えたからその必要もなくなったし。ここにとめてもらうわけにも行かないだろうから宿も探さないとね」
「じゃ、ここに残るのはわたしと…」
「僕もだ。蒼支の部屋に案内してもらわないと」
「OK。じゃ宿が決まったら誰か連絡をお願いね」
ユキ、メルベール、ホーリーがリーシェルと共に部屋を出る。応接室は丁度玄関のすぐ脇にあったから広い屋敷でも迷う事はない。
「これが別荘とか…すごいんだなぁ」
「うん…」
リーシェルとユキがルビーの生まれについて感想を漏らす。
「今更、ですけどね。わたしに言わせれば。幾度か話したでしょう、王立の研究機関に在籍していたとか」
とホーリー。
「そうだけど…でも聞くのと見るのじゃ…」
ホーリーが大きな扉のノブに手をかけて力いっぱい引く。扉はギギィーと軋んだ音を立てて開け放たれた。
「さ、まずは宿の確保を。ここは曲がりなりにも一国の首都。宿探すのも一苦労なはずです」
考えるのは後、と三人を促して外へ出ると視線の先に人影が見えた。
「ルビーさん!?」
リーシェルが叫ぶ。目をマスクで覆い、白銀の鎧を着てはいてもあの返り血を多量に浴びたような燃える紅い髪を伸ばしている人は彼しかいない。その姿を見、ユキは硬直した。
「…とあの時の女剣士!」
「…」
ルビーは無言で四人のすぐ前まで進む。
「お久しぶり、ですね」
ホーリーが言う。
「ああ」
「る、ルビー…」
ユキがおずおずと尋ねる。
「やっぱりあたし、あなたと一緒に…」
「断る」
オアシスで会った時と同じくユキを拒絶するルビー。
「言ったはずだ。俺の意思を理解出来ない者の同行はさせぬと。それとも判った上での申し出か?」
「違う…わ。でもね…でも、でも…っ」
両方の拳をぎゅっと握り締めてうつむくユキ。
「ルビーさん、だよな。いったいどうしたってんだ?」
怪訝そうな顔でリーシェルが割ってはいる。
「別に何も。邪魔だから失せろと言っているだけだ」
「なんだって!」
淡々としているルビーにリーシェルはかちんと来た。リーシェルは飄々とした物言いが嫌いなようだ。
「この先弱い者に用はない。大体激昂しているという事は図星か?」
「この…っ…いくらアンタでも言っていいことと悪い事が…」
身を乗り出してルビーに掴みかかろうとしたリーシェルをユキが静止する。
「…ユキさん?」
ユキはリーシェルの袖口を掴んだまま、ふるふると首を横に振った。
「…いいの」
「でも…」
「いいの!」
ユキは語気こそ荒げたが、目を涙でにじませていた。
「アンタ…わかってるんだろ!ユキさんの気持ち!それを…どうして傷つけるような事を言うんだ!!」
「感情などとうの昔に捨て去った」
「この…っ言わせておけば…っ」
ユキが掴んでいない方の手を伸ばそうとするが、そちらはメルベールが腕にしがみついた。
「駄目!お兄ちゃん落ち着いて!!」
(これ以上は…だめだよお兄ちゃん!!)
メルベールにはリーシェルに宿る『こころの精霊達』の様子が伺えた。リーシェルは今『怒りの精霊<ヒューリー>』に精神を支配されそうになっていた。それは『狂戦士化』を生み、一切を破壊し、また確実に自らも死にいたる。
「ルビー、これだけは覚えておいて」
ユキが涙目で訴える。
「あたしは、ううん。あたしだけじゃない。メルベールもリーシェル君もホーリーさんも。二年前出会った人達はみんな貴方を信じてるわ」
「…」
訴えにルビーは何の反応も示さなかった。
「ちょっと、いいかな…」
小声でルビーの隣にいた蒼支が話しかける。
「何だ?」
「えっと…朔良がこの屋敷の中にいるみたいなんだけど…。わかるの、わたしには朔良が近くにいると…」
「行って来るといい」
「うん…」
ユキ等四人の脇を抜け、蒼支は屋敷の中へと入っていった。
「行こう、ユキさん」
ようやく力を抜いたリーシェルが言った。
「でも…」
「いいんだ。今目の前にいるルビーさんは二年前のルビーさんじゃない。話してわかる人じゃない」
「そんな事…」
「いいから。行こう」
二人の制止を振り切ってリーシェルは門へ向かって歩き出した。
「じゃあ、行くね」
メルベールがユキを促して自らもリーシェルの後を追った。
「ルビー。今中で佳純さんが色々調べ物をしています。わたしはそれ如何によって決めます」
「そうしてくれ、と言ってるのだがな。奴らにも」
貴方にしては言葉足らずですよ、まぁあえてそうしてるんでしょうけど、とホーリーが苦笑いをした。
「ああ、それと。今この世界に現れている『天使』達はどこかおかしい。あなたは何か掴んでいますか?」
「奴らこそ敵だ。文献によるとこの世界の事態を引き起こしているのは神自身だという事だからな」
「なるほど…それなら納得できます。それともう一つ。その背中の物は…」
「スキアヴォーナだ。2年前のあの日壊れてしまったがな」
「なるほど。ではわたしも行きます」
「ああ」
軽く一礼をし、ホーリーはリーシェル達の後を追った。
chapter19:若さ故の…
「ええっ!申し込んで来たぁ!?」
「うん。一度ああいう催しには参加してみたかったし」
証拠としてリーシェルは参加者に与えられる『参加資格証』を無造作にテーブルへと放り出す。資格証には『個人の部』と書かれていた。
あの後、運よく人数分の宿が確保できた(と言うよりも寂れた場末の酒場を借り切ったと言った方が早い)一行は1階の卓を並べて大テーブルに見立て、そこでそれぞれ席についていた。
「それにさ。ウサ晴らししたいじゃん?」
リーシェルの言う『憂さ』とはルビーの事だろう。
「あたしも出てみたい…かも」
ユキがやんわりと言った。
「出たらいいじゃない」
「でも!あたしはリー君みたいに強くないし…」
「なら、私も一緒に出ますよ」
「わたしもね」
名乗りを上げたのはホーリーと佳純だった。個人の部以外にもグループ戦がいくつかある。対人向け、モンスターとの対戦などだ。
「やっぱり出るとなると…パーティの部・モンスター対戦かなぁ」
命を奪う事になるだろうが、少なくともモンスターと戦う方が辛さは少ないように思う。
「ふむ…では後ひとりは…」
パーティは4人一組が原則であると要項に書かれていたのでもうひとり確保する必要がある。
「あたしが出るわよ?」
戸口から声がかかった。
「あぁ!」
「ら、ラーレ!」
戸口にはアッシュピンクの髪の少女。
「へ~。あの爺さんやっぱすごいわ」
独り言をつぶやいてから中央の『大テーブル』へと近づく。
「今まで何してたの…?この2年」
「それはこっちの台詞だってば。あの時な~んでかラフィゲートの地方の村に飛ばされてね~」
「そっか。ラーレちゃんはラフィゲートだったのね」
”ちゃん付け”にしたのはメルベールだ。
「んで何かわかるかな~と思って学問の都を目指そうとしたんだけど…」
ラーレはこれまでの顛末を手短に話した。一行もラーレにこれまでの事を話した。
「ふ~ん。あのルビーがねぇ」
どうせなんか考えてるんだろうな、とは思う。ああいう人が態度を硬化させる場合は主に2つ。本当に真意を汲み取ってほしいか、でなければ単独、若しくは少数の方が動きやすいかだろう。
それはラーレだけでなくホーリーや佳純は判っているようだが逆にリーシェルやユキ、メルベールには理解しがたいようだった。
「そういえば…ラーレが同行したって言うエルフの人は?」
「あ~…。シェイドタウンについた途端になんか血相変えて走り出したわ。何か起こってるらしいのよね。あたしにはわかんないけど」
(エルフ…って事は精霊使いよね…もしかしてわたしが感じているアレを追っている …?)
メルベールが感じている精霊の波動を感じたのかもしれない。
「それはそうと。そっちこそ朔良、ってコは?」
「彼は蒼支と一緒にいるって」
佳純が苦笑いを浮かべながら説明した。
「うん。一度ああいう催しには参加してみたかったし」
証拠としてリーシェルは参加者に与えられる『参加資格証』を無造作にテーブルへと放り出す。資格証には『個人の部』と書かれていた。
あの後、運よく人数分の宿が確保できた(と言うよりも寂れた場末の酒場を借り切ったと言った方が早い)一行は1階の卓を並べて大テーブルに見立て、そこでそれぞれ席についていた。
「それにさ。ウサ晴らししたいじゃん?」
リーシェルの言う『憂さ』とはルビーの事だろう。
「あたしも出てみたい…かも」
ユキがやんわりと言った。
「出たらいいじゃない」
「でも!あたしはリー君みたいに強くないし…」
「なら、私も一緒に出ますよ」
「わたしもね」
名乗りを上げたのはホーリーと佳純だった。個人の部以外にもグループ戦がいくつかある。対人向け、モンスターとの対戦などだ。
「やっぱり出るとなると…パーティの部・モンスター対戦かなぁ」
命を奪う事になるだろうが、少なくともモンスターと戦う方が辛さは少ないように思う。
「ふむ…では後ひとりは…」
パーティは4人一組が原則であると要項に書かれていたのでもうひとり確保する必要がある。
「あたしが出るわよ?」
戸口から声がかかった。
「あぁ!」
「ら、ラーレ!」
戸口にはアッシュピンクの髪の少女。
「へ~。あの爺さんやっぱすごいわ」
独り言をつぶやいてから中央の『大テーブル』へと近づく。
「今まで何してたの…?この2年」
「それはこっちの台詞だってば。あの時な~んでかラフィゲートの地方の村に飛ばされてね~」
「そっか。ラーレちゃんはラフィゲートだったのね」
”ちゃん付け”にしたのはメルベールだ。
「んで何かわかるかな~と思って学問の都を目指そうとしたんだけど…」
ラーレはこれまでの顛末を手短に話した。一行もラーレにこれまでの事を話した。
「ふ~ん。あのルビーがねぇ」
どうせなんか考えてるんだろうな、とは思う。ああいう人が態度を硬化させる場合は主に2つ。本当に真意を汲み取ってほしいか、でなければ単独、若しくは少数の方が動きやすいかだろう。
それはラーレだけでなくホーリーや佳純は判っているようだが逆にリーシェルやユキ、メルベールには理解しがたいようだった。
「そういえば…ラーレが同行したって言うエルフの人は?」
「あ~…。シェイドタウンについた途端になんか血相変えて走り出したわ。何か起こってるらしいのよね。あたしにはわかんないけど」
(エルフ…って事は精霊使いよね…もしかしてわたしが感じているアレを追っている …?)
メルベールが感じている精霊の波動を感じたのかもしれない。
「それはそうと。そっちこそ朔良、ってコは?」
「彼は蒼支と一緒にいるって」
佳純が苦笑いを浮かべながら説明した。
chapter20:執着 空白の時を埋めるように
蒼支の部屋に案内されると、朔良はしばらく戸口に立ったまま中を見渡していた。軽く小さな家ならすっぽりと入ってしまうような閉じた空間。そこは年頃の少女に見られる暖色系の色である程度の統一がなされた壁紙、カーテン類に囲まれアンティークな雰囲気の漂うクローゼットに机、椅子が置かれ、部屋に入った途端目に入る白いレース付きの大きなベッド。部屋は明らかに朔良の知っている蒼支の匂いがした。
「蒼…」
自分にだけ聞こえる声でつぶやくと、朔良はようやく部屋を隅々回り始める。朔良の腰ほどの高さの引き出しの上にはうさぎともくまとも似ているようで似つかないぬいぐるみが置いてある。
「まだ…持ってたんだな」
それは幼い日、朔良が蒼支にあげた最初のプレゼントだ。化粧台にもいくつか見たことのある蒼支愛用の道具が置いてあった。
「やっぱり蒼支はこの2年ここで生活していたんだな…」
ほかにも、朔良にしかわからない蒼支の『クセ』がいくつか見られた。
急に、激しく蒼支への思いがのしかかってきた。思い、と言うよりは妄執に近いその念の勢いはちょっとでも気を抜くと妄執に狂い、全てを支配されそうだ。たまらずその場にうずくまって目を固く閉じ、やり過ごそうとするが行き場の無い激しい思いは一向に消える気配を感じさせない。
「っ…くっ…蒼っ…」
薄目を開け足元を見ると、そこには出掛けに急いでいたのか蒼支のパジャマが落ちている。無意識にパジャマを手に取り、きつく抱きしめる朔良。そうしているとはっきりと、濃く蒼支を嗅覚が敏感に感じ取とれた。そのまま深く自分の奥まで蒼支をいきわたらせようと何度も深呼吸する。
これまで『蒼支に頼られる』事で自己のアイデンティティーを確立してきた彼にとって、2年と言う歳月を蒼支と離れて暮らすのは限界だった。もう少しで自我の崩壊に至るような所をなんとか持ったのはひとえに彼の並外れた精神力の賜物に他ならない。
飄々とした外面で固く隠してはいるが、内心は蒼支の事でいっぱいだった。今どこにいるのだろう、何を考えているのだろう、誰といるのだろう。そんな事ばかりをとりとめも無く延々…朝起きてから夜寝るまでのほとんどの時間を費やして考えていた気もする。朔良の中の『蒼支』はもうカラカラに乾いて、尽きかけてしまっていたのだ。
「朔!」
ドアが盛大な音を立てて開いた。蒼支はかがんでいる朔良を見つけるとそのまま駆け足で近づく。
「朔…?」
おずおずと顔をあげて蒼支を焦点の合わない目で見る。その目からは涙が一筋、こぼれていた。
「そ、う…か?」
「うん、久しぶりだね朔。あの時よりは短いけど…ってちょっと何持ってるの!?」
朔良が手にしている自分の脱ぎ捨てたパジャマを見つける。
「そう…」
(朔…また壊れちゃったんだ…)
「さ、それはこっちに頂戴?」
蒼支がパジャマを取ろうと子供を諭すような優しい笑みを浮かべ、手を伸ばすと朔良は突然立ち上がって蒼支に近づいた。
「きゃ…っ」
朔良は構わずそのまま近づく。体勢を整えようと蒼支は2,3歩後ずさる。
「朔…ちょっと待って…きゃっ」
部屋の中央にある豪華なベッドに背中から倒れる蒼支。ちょうど朔良が蒼支をベッドに押し倒した格好になった。
「蒼…」
突然倒れた事に驚く蒼支をよそに朔良が蒼支の首筋に顔をうずめる。
「あ、だめだよ朔…っ…んっ」
顔を近づけられると、朔良の息遣いがとても荒いのがわかる。
「朔…欲しいの?」
うっすらと目に涙を浮かべたずねる蒼支。だが朔良からの返答はなく、代わりに荒々しく、すばやく唇を重ねられた。
「んっ…ふっ…」
喉の奥の方から甘い声を漏らす蒼支。
(確かあの時もこんなだったっけな…)
朔良の作り出す快感に身をよじらせつつ思いをめぐらす。
あれは二人が9歳の時。あまりにもお互いに執着しあう二人を両親が強引に引き離した事があった。3年と言う歳月を離れ離れに暮らさざるを得なかったのだが、再会した時の朔良も確かこんな風に自我を保てない状態だった。
(ごめん、ごめんね朔…)
「蒼…」
自分にだけ聞こえる声でつぶやくと、朔良はようやく部屋を隅々回り始める。朔良の腰ほどの高さの引き出しの上にはうさぎともくまとも似ているようで似つかないぬいぐるみが置いてある。
「まだ…持ってたんだな」
それは幼い日、朔良が蒼支にあげた最初のプレゼントだ。化粧台にもいくつか見たことのある蒼支愛用の道具が置いてあった。
「やっぱり蒼支はこの2年ここで生活していたんだな…」
ほかにも、朔良にしかわからない蒼支の『クセ』がいくつか見られた。
急に、激しく蒼支への思いがのしかかってきた。思い、と言うよりは妄執に近いその念の勢いはちょっとでも気を抜くと妄執に狂い、全てを支配されそうだ。たまらずその場にうずくまって目を固く閉じ、やり過ごそうとするが行き場の無い激しい思いは一向に消える気配を感じさせない。
「っ…くっ…蒼っ…」
薄目を開け足元を見ると、そこには出掛けに急いでいたのか蒼支のパジャマが落ちている。無意識にパジャマを手に取り、きつく抱きしめる朔良。そうしているとはっきりと、濃く蒼支を嗅覚が敏感に感じ取とれた。そのまま深く自分の奥まで蒼支をいきわたらせようと何度も深呼吸する。
これまで『蒼支に頼られる』事で自己のアイデンティティーを確立してきた彼にとって、2年と言う歳月を蒼支と離れて暮らすのは限界だった。もう少しで自我の崩壊に至るような所をなんとか持ったのはひとえに彼の並外れた精神力の賜物に他ならない。
飄々とした外面で固く隠してはいるが、内心は蒼支の事でいっぱいだった。今どこにいるのだろう、何を考えているのだろう、誰といるのだろう。そんな事ばかりをとりとめも無く延々…朝起きてから夜寝るまでのほとんどの時間を費やして考えていた気もする。朔良の中の『蒼支』はもうカラカラに乾いて、尽きかけてしまっていたのだ。
「朔!」
ドアが盛大な音を立てて開いた。蒼支はかがんでいる朔良を見つけるとそのまま駆け足で近づく。
「朔…?」
おずおずと顔をあげて蒼支を焦点の合わない目で見る。その目からは涙が一筋、こぼれていた。
「そ、う…か?」
「うん、久しぶりだね朔。あの時よりは短いけど…ってちょっと何持ってるの!?」
朔良が手にしている自分の脱ぎ捨てたパジャマを見つける。
「そう…」
(朔…また壊れちゃったんだ…)
「さ、それはこっちに頂戴?」
蒼支がパジャマを取ろうと子供を諭すような優しい笑みを浮かべ、手を伸ばすと朔良は突然立ち上がって蒼支に近づいた。
「きゃ…っ」
朔良は構わずそのまま近づく。体勢を整えようと蒼支は2,3歩後ずさる。
「朔…ちょっと待って…きゃっ」
部屋の中央にある豪華なベッドに背中から倒れる蒼支。ちょうど朔良が蒼支をベッドに押し倒した格好になった。
「蒼…」
突然倒れた事に驚く蒼支をよそに朔良が蒼支の首筋に顔をうずめる。
「あ、だめだよ朔…っ…んっ」
顔を近づけられると、朔良の息遣いがとても荒いのがわかる。
「朔…欲しいの?」
うっすらと目に涙を浮かべたずねる蒼支。だが朔良からの返答はなく、代わりに荒々しく、すばやく唇を重ねられた。
「んっ…ふっ…」
喉の奥の方から甘い声を漏らす蒼支。
(確かあの時もこんなだったっけな…)
朔良の作り出す快感に身をよじらせつつ思いをめぐらす。
あれは二人が9歳の時。あまりにもお互いに執着しあう二人を両親が強引に引き離した事があった。3年と言う歳月を離れ離れに暮らさざるを得なかったのだが、再会した時の朔良も確かこんな風に自我を保てない状態だった。
(ごめん、ごめんね朔…)
作者と♀キャラの座談会。
作者:はいはーい。はじめるよ~
都内某所・会議室(のような場所)に集められた一同。
蒼支:ちょっと!直前のアレは何!?
作者:いきなり抗議かよ…
蒼支:あったり前でしょ!ハズいんだから、もう…
作者:そうは言ってもな…進行上必要だったしな…
蒼支:そりゃ嬉しいけどさ…どうせなら全部書いてよ全部!!
作者:マテ!お前はこの小説を官能小説にするつもりか!!
蒼支:だってー
作者:あ、あっちで朔良が逆ナンされてる
蒼支:(キュピィーン、と目が光る)あたしの朔に手出そうってヤツは…殺す!!
(バタバタバタと会場を走り去る蒼支)
作者:ふう・・・
ユキ:ねぇねぇ
作者:ユキ?どうした?
ユキ:殴っていい?(にっこり)
作者:却下。
ユキ:そういわずに、ね?(さらににっこり)
作者:おま、殴るってその手に持ってる斧使うつもりだろーが!
メルベール:貴方は一回殴られたほうがよいと思うな
作者:なんでだ!
ラーレ:そりゃ…ユキを幸せにしてあげてないからでしょー
作者:…
ユキ:だから一回殴られて?ね?
作者:ちゃんと考えてはいるんだぞ?
ユキ:今の状態じゃ明らかにあたしヒロインじゃないじゃない…
作者:う~ん…サフィとどっちをヒロインにしようか悩んだまま書き始めたからな…サフィにもその要素は残ってるんだよ
ユキ:今は?
作者:ヒロインは君だ(キッパリ)
ユキ:ヒロインの待遇改善のためにやっぱり一発…
サファイア:ふふふ…
ユキ:出た!超ブラコン妹!
サファイア:だって~。あたしの理想なんだもん・・・それに…
ユキ:?
サファイア:ユキ、貴方だって…
作者:わーー!!それは言っちゃダメ!!!
ユキ:?
作者:あ、あっちでルビーがアイマスクはずして休んでる
ユキ&サフィ:ルビー!!!
(どたどたどた、と走って退場する二人)
作者:ふう。どーしてあいつらはこうなんだ…
佳純:それは…作者のあなたがもったいぶってばかりだからでしょう?
シスター:そーだそーだ
作者:君たちまで…
ラーレ:ところで…あたしが前に出した要望はどうなったの?
作者:要望って髪型の事か?
ラーレ:そう。今のECOのにして欲しいってヤツ
作者;ちゃんとやるよー。だから待ってな
ラーレ:はやめにやってくれないと<レイ>でお仕置きするよ?
作者:…なんとかしよう
シスター:あたしの出番は?
作者:これから増えるぞ
佳純:そういえばさ、ストーリー3のチャプター19で闘技場の団体戦参加、ってあったけどあのメンツって…
作者:そう!あのTOEOでの『聖晶霊術士4人で闘技場制覇』企画そのものだよ
佳純:あれは…またやりたいなぁ
ラーレ:あたしも~
作者:俺だってやりたいぞ…purpleさんの企画が成功して復活してくれることを祈るばかりだよ…さて、これからのこの小説についてだけど。
ラーレ:それが本題なんだっけ?
作者:そうだよ。なんか変な方向に最初から行ってしまったけど…
シスター:自業自得ってヤツだね
作者:うぐ…まぁそれはおいといて。ちょっとだけネタ明かすとな…ルビーはあのアイマスクをはずすし、ユキはちゃんとルビーと話できるようになるし、ってそうじゃない。これからは天使<アイオーン>たちとの全面戦争になっていくな
ラーレ:誰も覚えてないと思うけど…魔界に行ったあの女の子はどうなったの?
作者:ちゃんと出るぞ。ドールも出る。
ラーレ:ほほー?
作者:ただ…相当に不幸路線と言うかな…
佳純:今以上の不幸って…
作者:それは君もだよ?
佳純:?
作者:まぁ不幸かどうかは置いておいて、ちょっとした『変化』はあるかな
佳純:ふーん…
サラ:天界からこんばんわ~☆ミ
作者:おお、来た来た。一番のキーパーソンとも言える人物w
サラ:ほえ?そうなの??
作者:そりゃね。何千年も生きてる天使だし。昔の大戦についても知ってるからね
サラ:そっかー。作中のあたしってなんかエラそうだけど…
作者:年の功ってヤツ?ほら、漫画『3x3EYES』においても、高年齢の三只眼はエラそうで感情の起伏が…ってあったろ?それと似たようなモノさ
ラーレ:そういえばこの話ってさ
作者:ん?
ラーレ:作者の貴方の好きなもののネタをちりばめるとか聞いた気がするんだけど…
作者:ちりばめてるぞ?
ラーレ:それがよくわかんないんだけど…
作者:ふむ。まあ世界の設定とかそういうのも皆無だしな。ここらでそういう説明をしとくのもいいかもしれないな。
佳純:あ、時間がない…
作者:おお、ホントだ。じゃあ締めるよ。どうにかこうにか全体の三分の一くらいを消化した感じのあるこの話。作者の表現力不足が否めないところもあるけど…まあ気長にお付き合いください、以上、作者の脳内よりお届けしました~。
都内某所・会議室(のような場所)に集められた一同。
蒼支:ちょっと!直前のアレは何!?
作者:いきなり抗議かよ…
蒼支:あったり前でしょ!ハズいんだから、もう…
作者:そうは言ってもな…進行上必要だったしな…
蒼支:そりゃ嬉しいけどさ…どうせなら全部書いてよ全部!!
作者:マテ!お前はこの小説を官能小説にするつもりか!!
蒼支:だってー
作者:あ、あっちで朔良が逆ナンされてる
蒼支:(キュピィーン、と目が光る)あたしの朔に手出そうってヤツは…殺す!!
(バタバタバタと会場を走り去る蒼支)
作者:ふう・・・
ユキ:ねぇねぇ
作者:ユキ?どうした?
ユキ:殴っていい?(にっこり)
作者:却下。
ユキ:そういわずに、ね?(さらににっこり)
作者:おま、殴るってその手に持ってる斧使うつもりだろーが!
メルベール:貴方は一回殴られたほうがよいと思うな
作者:なんでだ!
ラーレ:そりゃ…ユキを幸せにしてあげてないからでしょー
作者:…
ユキ:だから一回殴られて?ね?
作者:ちゃんと考えてはいるんだぞ?
ユキ:今の状態じゃ明らかにあたしヒロインじゃないじゃない…
作者:う~ん…サフィとどっちをヒロインにしようか悩んだまま書き始めたからな…サフィにもその要素は残ってるんだよ
ユキ:今は?
作者:ヒロインは君だ(キッパリ)
ユキ:ヒロインの待遇改善のためにやっぱり一発…
サファイア:ふふふ…
ユキ:出た!超ブラコン妹!
サファイア:だって~。あたしの理想なんだもん・・・それに…
ユキ:?
サファイア:ユキ、貴方だって…
作者:わーー!!それは言っちゃダメ!!!
ユキ:?
作者:あ、あっちでルビーがアイマスクはずして休んでる
ユキ&サフィ:ルビー!!!
(どたどたどた、と走って退場する二人)
作者:ふう。どーしてあいつらはこうなんだ…
佳純:それは…作者のあなたがもったいぶってばかりだからでしょう?
シスター:そーだそーだ
作者:君たちまで…
ラーレ:ところで…あたしが前に出した要望はどうなったの?
作者:要望って髪型の事か?
ラーレ:そう。今のECOのにして欲しいってヤツ
作者;ちゃんとやるよー。だから待ってな
ラーレ:はやめにやってくれないと<レイ>でお仕置きするよ?
作者:…なんとかしよう
シスター:あたしの出番は?
作者:これから増えるぞ
佳純:そういえばさ、ストーリー3のチャプター19で闘技場の団体戦参加、ってあったけどあのメンツって…
作者:そう!あのTOEOでの『聖晶霊術士4人で闘技場制覇』企画そのものだよ
佳純:あれは…またやりたいなぁ
ラーレ:あたしも~
作者:俺だってやりたいぞ…purpleさんの企画が成功して復活してくれることを祈るばかりだよ…さて、これからのこの小説についてだけど。
ラーレ:それが本題なんだっけ?
作者:そうだよ。なんか変な方向に最初から行ってしまったけど…
シスター:自業自得ってヤツだね
作者:うぐ…まぁそれはおいといて。ちょっとだけネタ明かすとな…ルビーはあのアイマスクをはずすし、ユキはちゃんとルビーと話できるようになるし、ってそうじゃない。これからは天使<アイオーン>たちとの全面戦争になっていくな
ラーレ:誰も覚えてないと思うけど…魔界に行ったあの女の子はどうなったの?
作者:ちゃんと出るぞ。ドールも出る。
ラーレ:ほほー?
作者:ただ…相当に不幸路線と言うかな…
佳純:今以上の不幸って…
作者:それは君もだよ?
佳純:?
作者:まぁ不幸かどうかは置いておいて、ちょっとした『変化』はあるかな
佳純:ふーん…
サラ:天界からこんばんわ~☆ミ
作者:おお、来た来た。一番のキーパーソンとも言える人物w
サラ:ほえ?そうなの??
作者:そりゃね。何千年も生きてる天使だし。昔の大戦についても知ってるからね
サラ:そっかー。作中のあたしってなんかエラそうだけど…
作者:年の功ってヤツ?ほら、漫画『3x3EYES』においても、高年齢の三只眼はエラそうで感情の起伏が…ってあったろ?それと似たようなモノさ
ラーレ:そういえばこの話ってさ
作者:ん?
ラーレ:作者の貴方の好きなもののネタをちりばめるとか聞いた気がするんだけど…
作者:ちりばめてるぞ?
ラーレ:それがよくわかんないんだけど…
作者:ふむ。まあ世界の設定とかそういうのも皆無だしな。ここらでそういう説明をしとくのもいいかもしれないな。
佳純:あ、時間がない…
作者:おお、ホントだ。じゃあ締めるよ。どうにかこうにか全体の三分の一くらいを消化した感じのあるこの話。作者の表現力不足が否めないところもあるけど…まあ気長にお付き合いください、以上、作者の脳内よりお届けしました~。
chapter21:新たなる想いを胸に
「落ち着いた?朔」
寄り添ってベッドに横たわる朔良に向かって優しく問いかける蒼支。
「落ち着いた」
答えると蒼支の首の下に伸ばした右腕で彼女の肩を抱き寄せる。行為の余韻が残っているのかぴくっと肩を震わせる蒼支。
「ごめんね。朔がこうなるのわかってたんだけどほったらかしにしちゃった」
「蒼には蒼の考えがあったんだろう。それは尊重するよ」
「うん。でもこれはけじめの問題」
「そっか」
「朔…」
甘い声色で名前を呼ぶ。
「ん?」
「『好き』って言って?」
「…どうするかな」
わざとらしく悩むふりの朔良。
「言って?」
さっきよりももっと甘い声色でねだってみる。
「…」
「もういい!朔なんかキラーイ!!」
体ごと朔良と反対方向を向く蒼支。嫌い、と言っておきながらも部屋はおろかベッドすら出ない所が『いつものやりとりの一環』なのだろうか。そういう蒼支を見るのも久しぶりで朔良にはなんだか2年前よりも愛おしく思えた。
「待てよ」
力ずくで蒼支を仰向けにすると、その上に両ひじで自重をささえ蒼支にかぶさるような姿勢になる朔良。
「好きだよ」
ちょうどその体勢では逆光で朔良の顔全体を影が暗くしていたがむしろその影が逆に朔良自身の色っぽさをかもし出すソースとなっていた。惚れ直す、と言うのはこういう気持ちを言うのだろうか。2年ぶりに相手の気持ちを直に、音声で伝えられた蒼支はみるみる顔が紅潮し、次の言葉が自然にうわずった。
「あたしも好き。もう離さないよ、朔」
「僕もだ。もう離れるもんか」
「わかった」
スカーレット家別荘・スタールビー私室。朔良と蒼支から今後の自分たちについて提案を受けたルビーは表情ひとつかえずに納得した。
「いいの?提案しておいてアレだけど」
「かまわん。目的があるならそれを阻む事はしない」
餞別変わりだ、とルビーは朔良に一枚のメモを手渡した。
「これは…?」
「文献に出てきた<セクエンス>と<ワルプルギス>についてまとめた物だ」
「え…でもあたしが調べてたんじゃ…」
「君の調べ方は少々不慣れな点があったからな。こんな事もあろうかとついでにまとめておいた」
「ありがと…」
「こちらこそだ。助手としても道案内としても助かった」
ルビーが左手を差し出すと、蒼支はそれに答えて握手を交わす。
「そういえばそのマスク、取らないの?」
朔良がふとした疑問を投げかける。
「ああ。これは過去との決別と予想されうる未来への決意を示すために素顔を隠す意味がある。はずすのは今の所『全てが終わった時』と決めている」
それにしても、とルビーは続けた。
「俺に君のような対応が出来ればよかったのだが、な」
「僕?それはサファイアって人の事?」
そうだ、とルビーはうなずいた。
「昔…いや今もか。サフィが俺に向けている感情は蒼支の君に対するものとほぼ同じだ。俺はそうやって答える事が出来なかった。世間的なモラルと言うのもあるが…何より自身の気持ちがそうではなかったからな」
「まったく。世界を賭けて兄弟げんかでもするつもりかい?」
肩をすくめて朔良がおどけるように言う。
「喧嘩、で済めばいいがな」
「じゃ、そろそろ行くね」
蒼支が朔良の手をそっと握りしめて、ルビーに伝えた。
「ああ。また会おう」
朔良が蒼支の肩に腕を回すと、それを合図により沿うように部屋を出て行った。
寄り添ってベッドに横たわる朔良に向かって優しく問いかける蒼支。
「落ち着いた」
答えると蒼支の首の下に伸ばした右腕で彼女の肩を抱き寄せる。行為の余韻が残っているのかぴくっと肩を震わせる蒼支。
「ごめんね。朔がこうなるのわかってたんだけどほったらかしにしちゃった」
「蒼には蒼の考えがあったんだろう。それは尊重するよ」
「うん。でもこれはけじめの問題」
「そっか」
「朔…」
甘い声色で名前を呼ぶ。
「ん?」
「『好き』って言って?」
「…どうするかな」
わざとらしく悩むふりの朔良。
「言って?」
さっきよりももっと甘い声色でねだってみる。
「…」
「もういい!朔なんかキラーイ!!」
体ごと朔良と反対方向を向く蒼支。嫌い、と言っておきながらも部屋はおろかベッドすら出ない所が『いつものやりとりの一環』なのだろうか。そういう蒼支を見るのも久しぶりで朔良にはなんだか2年前よりも愛おしく思えた。
「待てよ」
力ずくで蒼支を仰向けにすると、その上に両ひじで自重をささえ蒼支にかぶさるような姿勢になる朔良。
「好きだよ」
ちょうどその体勢では逆光で朔良の顔全体を影が暗くしていたがむしろその影が逆に朔良自身の色っぽさをかもし出すソースとなっていた。惚れ直す、と言うのはこういう気持ちを言うのだろうか。2年ぶりに相手の気持ちを直に、音声で伝えられた蒼支はみるみる顔が紅潮し、次の言葉が自然にうわずった。
「あたしも好き。もう離さないよ、朔」
「僕もだ。もう離れるもんか」
「わかった」
スカーレット家別荘・スタールビー私室。朔良と蒼支から今後の自分たちについて提案を受けたルビーは表情ひとつかえずに納得した。
「いいの?提案しておいてアレだけど」
「かまわん。目的があるならそれを阻む事はしない」
餞別変わりだ、とルビーは朔良に一枚のメモを手渡した。
「これは…?」
「文献に出てきた<セクエンス>と<ワルプルギス>についてまとめた物だ」
「え…でもあたしが調べてたんじゃ…」
「君の調べ方は少々不慣れな点があったからな。こんな事もあろうかとついでにまとめておいた」
「ありがと…」
「こちらこそだ。助手としても道案内としても助かった」
ルビーが左手を差し出すと、蒼支はそれに答えて握手を交わす。
「そういえばそのマスク、取らないの?」
朔良がふとした疑問を投げかける。
「ああ。これは過去との決別と予想されうる未来への決意を示すために素顔を隠す意味がある。はずすのは今の所『全てが終わった時』と決めている」
それにしても、とルビーは続けた。
「俺に君のような対応が出来ればよかったのだが、な」
「僕?それはサファイアって人の事?」
そうだ、とルビーはうなずいた。
「昔…いや今もか。サフィが俺に向けている感情は蒼支の君に対するものとほぼ同じだ。俺はそうやって答える事が出来なかった。世間的なモラルと言うのもあるが…何より自身の気持ちがそうではなかったからな」
「まったく。世界を賭けて兄弟げんかでもするつもりかい?」
肩をすくめて朔良がおどけるように言う。
「喧嘩、で済めばいいがな」
「じゃ、そろそろ行くね」
蒼支が朔良の手をそっと握りしめて、ルビーに伝えた。
「ああ。また会おう」
朔良が蒼支の肩に腕を回すと、それを合図により沿うように部屋を出て行った。
chapter22:控え室
『お~っと!リーシェル選手またも一撃で相手を撃破~~~~っ!!!!』
場内で高らかにリーシェルの勝ちのアナウンスが流れる。どっと沸きあがる歓声はもう狂乱状態そのものだ。
『強い!強すぎるリーシェル選手!これは優勝候補のダークホース出現かぁ~っ!!!』
「違う。相手が弱すぎるんだよ」
どよめく会場でそんな事を言っても誰も聞こえる人はいないがリーシェルは剣を納めると控え室へとゆっくり引き返した。
「お兄ちゃん、お疲れ様」
待ち構えていたメルベールがタオルを差し出す。
「別に剣を一振りするだけじゃつかれようもないけどね~」
とは言ったものの不慣れな場にいる、大勢の注目を集めているという事が極度の緊張を生み、汗びっしょりである。タオルを受け取ると指定された椅子へどっかりと座り込んで汗をふき取った。
「おうおう。いいねぇ可愛いマネージャーがいてよォ」
リーシェルの倍もある体格の男が因縁をつけにきたようだ。体格差で威嚇されまいと立ち上がる。
「次の俺の相手がこんなちびっことはな」
「おいおい、アンタさっきまでのこのコの試合見てないのか?」
別の一人が大男を制止する。
「あぁン?」
「これまでこのコは3戦全てを一撃で勝利しているんだぞ」
青い髪の、リーシェルと同じくらいの年齢に見えるその少年がリーシェルに代わって戦果を告げた。
「ほう。そりゃ相手が弱かったってだけだろうが」
帰ってきた答えにその少年はムっとしかめっ面をする。しかしリーシェルは少年を制止するように横に片腕を払う。
「いいって。どうせ次で自分が弱いって事も身をもって知るだろうしね」
リーシェルが平然とした口調で大男に言い放った。
「なんだと、小僧。試合の前にテメぇを絨毯にする事も出来るんだぞ!」
「参加者は大会開催中の一切の私闘を禁じられているよ。ルールを把握する頭もないのかい?」
すかさず少年が大会規定を述べた。
「くっ…テメぇだけは殺す!確実にな!!」
わざとらしい足音を立てて男は控え室を後にした。
「やあ。災難だったね」
先ほど制止した男が親しげにリーシェルに話しかけた。
「いや。あんなのは相手にしない事にしてるんで」
「見かけによらず大人だ。それに結構修羅場をくぐってきてると見える」
「そんな事ないさ」
謙遜でなく本気で相手がそう思っているのがわかったリーシェルは少し照れ気味に答える。
「あ、お兄ちゃん照れてるでしょ」
メルベールがおかしげに突っ込む。
「そこ突っ込むな!」
「でも、個人的には君には最低後1回は勝って欲しいね」
「なんでさ?」「そりゃね。その後の準決勝では俺が順当に勝てれば君とあたるんだ。是非手合わせ願いたい」
「そう言う事か。あなたのような礼儀を知ってる人なら大歓迎。ついでに強ければさらに歓迎だよ」
あはは、と男は笑った。
「俺はドール。一応魔法使い、と言っておくよ」
強いかどうかはわからないな、と冗談っぽく続けた。
「僕はリーシェル。よろしく」
差し出された手に、臆することなくリーシェルは自分の手を差し出し、二人は握手を交わした。
場内で高らかにリーシェルの勝ちのアナウンスが流れる。どっと沸きあがる歓声はもう狂乱状態そのものだ。
『強い!強すぎるリーシェル選手!これは優勝候補のダークホース出現かぁ~っ!!!』
「違う。相手が弱すぎるんだよ」
どよめく会場でそんな事を言っても誰も聞こえる人はいないがリーシェルは剣を納めると控え室へとゆっくり引き返した。
「お兄ちゃん、お疲れ様」
待ち構えていたメルベールがタオルを差し出す。
「別に剣を一振りするだけじゃつかれようもないけどね~」
とは言ったものの不慣れな場にいる、大勢の注目を集めているという事が極度の緊張を生み、汗びっしょりである。タオルを受け取ると指定された椅子へどっかりと座り込んで汗をふき取った。
「おうおう。いいねぇ可愛いマネージャーがいてよォ」
リーシェルの倍もある体格の男が因縁をつけにきたようだ。体格差で威嚇されまいと立ち上がる。
「次の俺の相手がこんなちびっことはな」
「おいおい、アンタさっきまでのこのコの試合見てないのか?」
別の一人が大男を制止する。
「あぁン?」
「これまでこのコは3戦全てを一撃で勝利しているんだぞ」
青い髪の、リーシェルと同じくらいの年齢に見えるその少年がリーシェルに代わって戦果を告げた。
「ほう。そりゃ相手が弱かったってだけだろうが」
帰ってきた答えにその少年はムっとしかめっ面をする。しかしリーシェルは少年を制止するように横に片腕を払う。
「いいって。どうせ次で自分が弱いって事も身をもって知るだろうしね」
リーシェルが平然とした口調で大男に言い放った。
「なんだと、小僧。試合の前にテメぇを絨毯にする事も出来るんだぞ!」
「参加者は大会開催中の一切の私闘を禁じられているよ。ルールを把握する頭もないのかい?」
すかさず少年が大会規定を述べた。
「くっ…テメぇだけは殺す!確実にな!!」
わざとらしい足音を立てて男は控え室を後にした。
「やあ。災難だったね」
先ほど制止した男が親しげにリーシェルに話しかけた。
「いや。あんなのは相手にしない事にしてるんで」
「見かけによらず大人だ。それに結構修羅場をくぐってきてると見える」
「そんな事ないさ」
謙遜でなく本気で相手がそう思っているのがわかったリーシェルは少し照れ気味に答える。
「あ、お兄ちゃん照れてるでしょ」
メルベールがおかしげに突っ込む。
「そこ突っ込むな!」
「でも、個人的には君には最低後1回は勝って欲しいね」
「なんでさ?」「そりゃね。その後の準決勝では俺が順当に勝てれば君とあたるんだ。是非手合わせ願いたい」
「そう言う事か。あなたのような礼儀を知ってる人なら大歓迎。ついでに強ければさらに歓迎だよ」
あはは、と男は笑った。
「俺はドール。一応魔法使い、と言っておくよ」
強いかどうかはわからないな、と冗談っぽく続けた。
「僕はリーシェル。よろしく」
差し出された手に、臆することなくリーシェルは自分の手を差し出し、二人は握手を交わした。
chapter23:デモンストレーション
数日に渡るトーナメント形式の個人戦・団体戦の合間を縫うように特別な催し『イベント』が開催されていた。リーシェルの試合が無いと言う事もあって一向はレジャー感覚で『イベント』に赴いていた。今はちょうど女性の二人組みがモンスターの集団と渡り合っていた。
ひとりはゆったりとしたつばが広く円錐状の帽子からゆるくウェーブのかかった青い髪を覗かせている。ところどころレースの刺繍の入った特徴的な青い魔法使い用のローブは遠めからは豪華なドレスに見えなくも無い。『蒼の女神様』と呼ばれ一部に熱狂的なファンをも獲得してしまった。彼女のその慈愛に満ちた微笑は見たもの全員を魅了するといっても過言ではないだろう。
もうひとりはさらさらでまっすぐな黒い髪を後ろでピンクの大きなリボンでまとめ、同じ色のミニワンピからは華奢で色白なな四肢がすらりと伸びている。こちらも『癒しの聖女様』と呼ばれ蒼の女神様と二分するほどの人気を誇る。彼女の屈託の無い、まっすぐな瞳は見るものに等しく安らぎを与え、生きる勇気をくれるかのように思える。
そんな二人のイベントがある日のチケットは早々に完売、観客席は座席率200%を越え立ち見も出ていた。いわゆる『戦うアイドルユニット』のようなものである。実際、隣国で機械の帝国『ラフィゲート』から小型の拡声器が二人にはつけられ、会場のどこにいても設置されたスピーカーから声を聞くことができた。
「すっごいな…これ」
指定応援席(ユキが王に頼んで人数分確保してもらった特等席)で一向は二人の人気のすごさを目の当たりにした。
「この国の人達って娯楽すくなそうだし…」
ストレスやフラストレーションを一気に発散させようと普段物静かな人ほど熱狂的になっているようにも見えた。
「お、次の試合が始まりますよ」
正面のゲートが開いて現れたのは人の5倍以上の体格をした動く植物<キャニバスプラント>、獣人族と呼ばれる半獣半人の種族のうち全く獣と化してしまった熊<ボールドベア>、成仏しきれない魂の成れの果て、と言われている黄色い光の玉<バーガートリー>が合計で10数体。
「あんなの無理だろう…どう考えたって」
リーシェルがぼそっと感想を漏らす。普通に考えたら、あの量のモンスターに囲まれたら生きてはいない。身を八つ裂きにされ、彼らの食事となってしまうのがオチだ。
『いっけぇ~』
魔法発動のための集中を掛け声と共に解く『蒼の女神』。
掛け声を発した途端モンスター群の足元の影がゆらり、と空中へとその手足を伸ばしていっせいに自分の『本体』の足へとしがみついた。
めいめいに二人に襲い掛かるべく直進していたモンスター群は突如として歩みが一斉に遅くなった。
「なんだ…あれ」
驚くまもなく蒼の女神は次の魔法の詠唱へと移っている。
『これでどう?』
しかし動いたのは桜花の聖女様だ。何かの術を蒼の女神様へと施したようで、紅く燃える火ので出来た大きなクロスが蒼の女神の目の前に出現し彼女の胸に収縮しながら吸収されていった。
『フリィィズ・ランサァ!』
杖を大きく振りかざすと彼女の目の前に白い巨大な『円』が出現し、円からは無数の氷の槍がモンスター群に向かって襲い掛かって行った。槍に貫かれたモンスター達は次々にその場へと倒れる。
しかし、数体が残っている、先ほどの影の束縛からも解放されたのか再び彼女達へと襲い掛かろうと歩み始める。だが、その時にはすでに桜花の聖女の次の術が完成していた。
『レイ!』
無数の光の柱が上から下へ、また床で反射して斜めにと様々に飛び散る。たった魔法2撃で並み居るモンスター群は全滅させられた。
「すげ…」
「あれが彼女達の人気の一角でもあります。まぁ『綺麗な薔薇にはとげがある』と言ったところですか」
『おお~っとぉ!またもや最強コンボが炸裂したぁ~!』
アナウンスにどっと盛り上がる会場。リーシェルの時とはまた違った盛り上がりだ。
『さすがは蒼の女神。いや魔王かぁ?』
桜花の聖女がくすりと笑った、様に見えた。実際闘技場内までは遠く席から表情まではわからない。
『だぁれが魔王よ!訂正しなさいアナウンサー!!』
拡声器抗議する蒼の女神。
『すっすみませんっ…頼むからここに魔法はやめて~』
急に下手に出るアナウンサー。どっと会場内に笑いが起こる。
『わかればよろしい』
完全に桜花の聖女の方は笑っているのがわかった。端整で綺麗な顔立ちをしているが、どちらかと言えば少女の様な心を持っているようだった。
「なるほどねぇ。古代魔法の発掘に成功した魔法使いの<シャドウ・バインド>で足止めをして空間系魔法で攻撃。念のために神官は光の力を収束させておいて残りを<レイ>叩くのね。ここまでの人材をデモンストレーションに使えるなんて…」
佳純が妙に納得したようにひとり頷いていた。
「やっぱりあの人しかいないわね」
「誰です?」
メルベールが観客達のざわめきに耳をふさぎながら聞く。
「ルビーよ。ルビーならあれくらいの実力者でこういうショーをしてもらうくらいわけないわ。元貴族だからつては広いはずだもの」
なるほど、メルベールは納得したのかうなずく。
「あ!あれは!」
白銀の鎧に身を包んだ真紅の髪の騎士がイベントを終えたアイドルユニット二人に近づいていた。
「ル、ルビー…」
ユキもそれに気づいたのか会場のその一点に目を凝らす。
『わが友、ハゼそして八昇の二人に盛大な拍手を!』
わぁぁ~っと一気に盛り上がりを見せる会場。
「ルビーさん…人気あるんだ」
「あの性格と地位じゃ無理も無いわね」
「…」
なぜだかリーシェルがムっとした表情を浮かべていた。
ひとりはゆったりとしたつばが広く円錐状の帽子からゆるくウェーブのかかった青い髪を覗かせている。ところどころレースの刺繍の入った特徴的な青い魔法使い用のローブは遠めからは豪華なドレスに見えなくも無い。『蒼の女神様』と呼ばれ一部に熱狂的なファンをも獲得してしまった。彼女のその慈愛に満ちた微笑は見たもの全員を魅了するといっても過言ではないだろう。
もうひとりはさらさらでまっすぐな黒い髪を後ろでピンクの大きなリボンでまとめ、同じ色のミニワンピからは華奢で色白なな四肢がすらりと伸びている。こちらも『癒しの聖女様』と呼ばれ蒼の女神様と二分するほどの人気を誇る。彼女の屈託の無い、まっすぐな瞳は見るものに等しく安らぎを与え、生きる勇気をくれるかのように思える。
そんな二人のイベントがある日のチケットは早々に完売、観客席は座席率200%を越え立ち見も出ていた。いわゆる『戦うアイドルユニット』のようなものである。実際、隣国で機械の帝国『ラフィゲート』から小型の拡声器が二人にはつけられ、会場のどこにいても設置されたスピーカーから声を聞くことができた。
「すっごいな…これ」
指定応援席(ユキが王に頼んで人数分確保してもらった特等席)で一向は二人の人気のすごさを目の当たりにした。
「この国の人達って娯楽すくなそうだし…」
ストレスやフラストレーションを一気に発散させようと普段物静かな人ほど熱狂的になっているようにも見えた。
「お、次の試合が始まりますよ」
正面のゲートが開いて現れたのは人の5倍以上の体格をした動く植物<キャニバスプラント>、獣人族と呼ばれる半獣半人の種族のうち全く獣と化してしまった熊<ボールドベア>、成仏しきれない魂の成れの果て、と言われている黄色い光の玉<バーガートリー>が合計で10数体。
「あんなの無理だろう…どう考えたって」
リーシェルがぼそっと感想を漏らす。普通に考えたら、あの量のモンスターに囲まれたら生きてはいない。身を八つ裂きにされ、彼らの食事となってしまうのがオチだ。
『いっけぇ~』
魔法発動のための集中を掛け声と共に解く『蒼の女神』。
掛け声を発した途端モンスター群の足元の影がゆらり、と空中へとその手足を伸ばしていっせいに自分の『本体』の足へとしがみついた。
めいめいに二人に襲い掛かるべく直進していたモンスター群は突如として歩みが一斉に遅くなった。
「なんだ…あれ」
驚くまもなく蒼の女神は次の魔法の詠唱へと移っている。
『これでどう?』
しかし動いたのは桜花の聖女様だ。何かの術を蒼の女神様へと施したようで、紅く燃える火ので出来た大きなクロスが蒼の女神の目の前に出現し彼女の胸に収縮しながら吸収されていった。
『フリィィズ・ランサァ!』
杖を大きく振りかざすと彼女の目の前に白い巨大な『円』が出現し、円からは無数の氷の槍がモンスター群に向かって襲い掛かって行った。槍に貫かれたモンスター達は次々にその場へと倒れる。
しかし、数体が残っている、先ほどの影の束縛からも解放されたのか再び彼女達へと襲い掛かろうと歩み始める。だが、その時にはすでに桜花の聖女の次の術が完成していた。
『レイ!』
無数の光の柱が上から下へ、また床で反射して斜めにと様々に飛び散る。たった魔法2撃で並み居るモンスター群は全滅させられた。
「すげ…」
「あれが彼女達の人気の一角でもあります。まぁ『綺麗な薔薇にはとげがある』と言ったところですか」
『おお~っとぉ!またもや最強コンボが炸裂したぁ~!』
アナウンスにどっと盛り上がる会場。リーシェルの時とはまた違った盛り上がりだ。
『さすがは蒼の女神。いや魔王かぁ?』
桜花の聖女がくすりと笑った、様に見えた。実際闘技場内までは遠く席から表情まではわからない。
『だぁれが魔王よ!訂正しなさいアナウンサー!!』
拡声器抗議する蒼の女神。
『すっすみませんっ…頼むからここに魔法はやめて~』
急に下手に出るアナウンサー。どっと会場内に笑いが起こる。
『わかればよろしい』
完全に桜花の聖女の方は笑っているのがわかった。端整で綺麗な顔立ちをしているが、どちらかと言えば少女の様な心を持っているようだった。
「なるほどねぇ。古代魔法の発掘に成功した魔法使いの<シャドウ・バインド>で足止めをして空間系魔法で攻撃。念のために神官は光の力を収束させておいて残りを<レイ>叩くのね。ここまでの人材をデモンストレーションに使えるなんて…」
佳純が妙に納得したようにひとり頷いていた。
「やっぱりあの人しかいないわね」
「誰です?」
メルベールが観客達のざわめきに耳をふさぎながら聞く。
「ルビーよ。ルビーならあれくらいの実力者でこういうショーをしてもらうくらいわけないわ。元貴族だからつては広いはずだもの」
なるほど、メルベールは納得したのかうなずく。
「あ!あれは!」
白銀の鎧に身を包んだ真紅の髪の騎士がイベントを終えたアイドルユニット二人に近づいていた。
「ル、ルビー…」
ユキもそれに気づいたのか会場のその一点に目を凝らす。
『わが友、ハゼそして八昇の二人に盛大な拍手を!』
わぁぁ~っと一気に盛り上がりを見せる会場。
「ルビーさん…人気あるんだ」
「あの性格と地位じゃ無理も無いわね」
「…」
なぜだかリーシェルがムっとした表情を浮かべていた。
chapter24:精霊王の会合
『レイ!』
『デュアル・インパクト!』
『フォトン!』
『ホーリーランス!』
綺麗、の一言に尽きる。ユキ達4人の戦いは完全に魔法を主力に置いたものだった。昨日見た『イベント』での二人の戦い方を完全にコピーしたのだ。しかも4人全員が光を収束させたり、神の力を借りたりするのだ。大会きっての見るも綺麗な戦いとなった。
『すごい、すごいですこれは!』
アナウンサーも興奮気味だ。
『前代未聞な綺麗さです!まるで戦場に花が咲き誇り、そして散るかのようです!!』
「花ならここに3本も綺麗なのが咲き誇ってるじゃないねぇ」
ユキが佳純、ラーレと順に見つつ小声で抗議した。
「おや。ではわたしはその花を守るナイト役ですか」
「あはは。そうなるね~」
「そういうガラじゃないんですけどねぇ」
「ナイト…」
不意にユキが表情を曇らせる。
「あ…思い出しちゃったかな」
ラーレが心配そうにユキの顔を覗き込む。
「ん。ごめん。大丈夫だから」
「…いますね、あそこに」
「えっ」
ホーリーが観覧席の一つの区画、王族関係者専用の席を指す。そこには王の傍らに例のアイマスクをし、白銀の鎧に身を包んだ赤髪の男が立っていた。
「ルビー…」
一方その頃。メルベールは単身シェイドタウンの地下へと潜っていた。ずっと感じていた正体不明の精霊らしい存在からの波動が足の下から出ていると確信したのだ。町外れの川沿いに地下施設整備のために過去に作られた地下道の入り口がある。精霊探知<センス・オーラ>で地の精霊力の中に大きく風の精霊力が働いている箇所がある事で『入り口』を確信したメルベールは臆す事なく中へと入っていった。
『メルベール。十分気をつけて』
火の精霊、サラマンダー<ロック>が右肩から警告を発する。訓練の賜物なのか、ロックの言語能力は飛躍的にアップしていた。
「大丈夫よ。あなたもいるし」
『我々より先に、誰かがここに来ている』
「え…?」
『我にしかわからないと思うが…かすかに精神の精霊達の力を感じる』
「そう…じゃちょっと慎重にいこうか、ロック」
突如、木の葉が音も無く数枚メルベールへ向かって飛んでくる。
『!』
とっさにロックが火の壁を立ててそれらを全て燃やし尽くす。
『誰かいる』
「みたいね…」
洞窟の闇を光の精霊<ウィル・オー・ウィスプ>で遮って出てきたのは…
『エルフか…』
ロックが見た先には、耳の長い、淡い青い髪の少女が立っていた。
「ここを見つけたのはすごいけど…あんまり入ってこない方がいいよ?」
エルフの少女がメルベールに告げた。
「でも…」
「お嬢ちゃんはかなりの素質を持っているようじゃな」
エルフの奥から小柄な老人が現れた。
「儂は森の精霊<エント>。お嬢ちゃんも精霊使いなら名前くらいは知っておろう?」
「エント…って植物や木の精霊の王…」
「左様。儂からも変わってお願いをしよう。ここはこのエルフの嬢ちゃんに任せてはもらえないかね」
『それは出来ないな』
メルベールが答えるより早く、彼女の腰のバッグから声が響いた。ひとりでにバッグが開くと中から紅い宝石が炎をまとって飛び出す。
「お…お主は…」
「エント老。久しぶりだね」
炎が大きくはじけると、そこには赤褐色の肌の青年が現れた。
「炎の精霊王<イフリート>のグレンか」
「私はこの娘と今契約を結んでいる。先に進む資格は十分にあると思うが…」
「うむ…。確かに人工のとは言え精霊王は精霊王。力を貸しているのならば止める事はすまい」
「ここにいるのは…『四聖獣』のうちの一人、だったな」
「そうだ。なぜか力が不安定になっておる。よく無い事でなければよいが…」
「四聖獣?」
メルベールがイフリート、グレンに尋ねた。「我ら精霊王すら統べる存在だよ、メルベール。神獣とも言う。私も四聖獣の一、朱雀によってイフリートへとなったのだよ」
「そうだったんだ…」
「ついでに教えとくぞい。四聖獣の力は元々は天上の天使達のうちもっとも強く、かつ根本をなす力を持った4人の天使達の力をこの世界に流す役割を持っておる。我々精霊王はそれぞれ対応した四聖獣からその力を受け、下位の精霊へと流しているのだよ。イフリートは朱雀、そして儂は白虎、と言う様にな」
流れた力はめぐり、再び天使達の元へ戻る。エントの説明の途中に、<四聖獣>の力が大きく膨らんだ。
「むぅ…これは話などしとる場合ではないぞい」
「そうね…急ぎましょう」
「時にお嬢ちゃんは…メルベールでよかったかな?」
「うん。よろしくね、エントのおじいちゃんと…」
「わたしはシスター。よろしく」
エルフの少女も親しげに挨拶を返した。
『デュアル・インパクト!』
『フォトン!』
『ホーリーランス!』
綺麗、の一言に尽きる。ユキ達4人の戦いは完全に魔法を主力に置いたものだった。昨日見た『イベント』での二人の戦い方を完全にコピーしたのだ。しかも4人全員が光を収束させたり、神の力を借りたりするのだ。大会きっての見るも綺麗な戦いとなった。
『すごい、すごいですこれは!』
アナウンサーも興奮気味だ。
『前代未聞な綺麗さです!まるで戦場に花が咲き誇り、そして散るかのようです!!』
「花ならここに3本も綺麗なのが咲き誇ってるじゃないねぇ」
ユキが佳純、ラーレと順に見つつ小声で抗議した。
「おや。ではわたしはその花を守るナイト役ですか」
「あはは。そうなるね~」
「そういうガラじゃないんですけどねぇ」
「ナイト…」
不意にユキが表情を曇らせる。
「あ…思い出しちゃったかな」
ラーレが心配そうにユキの顔を覗き込む。
「ん。ごめん。大丈夫だから」
「…いますね、あそこに」
「えっ」
ホーリーが観覧席の一つの区画、王族関係者専用の席を指す。そこには王の傍らに例のアイマスクをし、白銀の鎧に身を包んだ赤髪の男が立っていた。
「ルビー…」
一方その頃。メルベールは単身シェイドタウンの地下へと潜っていた。ずっと感じていた正体不明の精霊らしい存在からの波動が足の下から出ていると確信したのだ。町外れの川沿いに地下施設整備のために過去に作られた地下道の入り口がある。精霊探知<センス・オーラ>で地の精霊力の中に大きく風の精霊力が働いている箇所がある事で『入り口』を確信したメルベールは臆す事なく中へと入っていった。
『メルベール。十分気をつけて』
火の精霊、サラマンダー<ロック>が右肩から警告を発する。訓練の賜物なのか、ロックの言語能力は飛躍的にアップしていた。
「大丈夫よ。あなたもいるし」
『我々より先に、誰かがここに来ている』
「え…?」
『我にしかわからないと思うが…かすかに精神の精霊達の力を感じる』
「そう…じゃちょっと慎重にいこうか、ロック」
突如、木の葉が音も無く数枚メルベールへ向かって飛んでくる。
『!』
とっさにロックが火の壁を立ててそれらを全て燃やし尽くす。
『誰かいる』
「みたいね…」
洞窟の闇を光の精霊<ウィル・オー・ウィスプ>で遮って出てきたのは…
『エルフか…』
ロックが見た先には、耳の長い、淡い青い髪の少女が立っていた。
「ここを見つけたのはすごいけど…あんまり入ってこない方がいいよ?」
エルフの少女がメルベールに告げた。
「でも…」
「お嬢ちゃんはかなりの素質を持っているようじゃな」
エルフの奥から小柄な老人が現れた。
「儂は森の精霊<エント>。お嬢ちゃんも精霊使いなら名前くらいは知っておろう?」
「エント…って植物や木の精霊の王…」
「左様。儂からも変わってお願いをしよう。ここはこのエルフの嬢ちゃんに任せてはもらえないかね」
『それは出来ないな』
メルベールが答えるより早く、彼女の腰のバッグから声が響いた。ひとりでにバッグが開くと中から紅い宝石が炎をまとって飛び出す。
「お…お主は…」
「エント老。久しぶりだね」
炎が大きくはじけると、そこには赤褐色の肌の青年が現れた。
「炎の精霊王<イフリート>のグレンか」
「私はこの娘と今契約を結んでいる。先に進む資格は十分にあると思うが…」
「うむ…。確かに人工のとは言え精霊王は精霊王。力を貸しているのならば止める事はすまい」
「ここにいるのは…『四聖獣』のうちの一人、だったな」
「そうだ。なぜか力が不安定になっておる。よく無い事でなければよいが…」
「四聖獣?」
メルベールがイフリート、グレンに尋ねた。「我ら精霊王すら統べる存在だよ、メルベール。神獣とも言う。私も四聖獣の一、朱雀によってイフリートへとなったのだよ」
「そうだったんだ…」
「ついでに教えとくぞい。四聖獣の力は元々は天上の天使達のうちもっとも強く、かつ根本をなす力を持った4人の天使達の力をこの世界に流す役割を持っておる。我々精霊王はそれぞれ対応した四聖獣からその力を受け、下位の精霊へと流しているのだよ。イフリートは朱雀、そして儂は白虎、と言う様にな」
流れた力はめぐり、再び天使達の元へ戻る。エントの説明の途中に、<四聖獣>の力が大きく膨らんだ。
「むぅ…これは話などしとる場合ではないぞい」
「そうね…急ぎましょう」
「時にお嬢ちゃんは…メルベールでよかったかな?」
「うん。よろしくね、エントのおじいちゃんと…」
「わたしはシスター。よろしく」
エルフの少女も親しげに挨拶を返した。
chapter25:苦戦
『さあ!ラスト20戦目!果たして彼らは栄光を掴む事が出来るのか~~っ!!』
けたたましいアナウンスが会場に響く。ユキ達は順当に勝ち抜き、最終戦へとたどり着いたのだった。事前に佳純が精神力持続・回復を促す薬草を準備してはいたものの、さすがに魔法の乱発はキツかった。
4人それぞれに疲弊の色が濃く出ている。だが無情にも休む暇もなくゲートが開かれ、倒すべきモンスターが現れた。「あれは…」19戦目までのモンスターに混じって一体見慣れないのがいた。いや、見慣れないと言うのは『モンスターの形状』をしていないと言う事で実際にはよくありふれた『人型』をしている。
「あれ…モンスターなの…?」
佳純の知識にも人型をとるモンスターはほとんど存在しない。せいぜい人型に具現化した暴走精霊くらいだったはずだ。
『その人型のももちろんモンスターです。これはわが国にある『深淵の洞窟』の最下層付近に生息する非常にレアなモンスターなのです』
4人の意思を察したかのようにアナウンサーが告げる。
「確かにあそこなら見たことない種もいるかも…」
「そんな悠長な事言ってる場合では!」
ホーリーが一喝する。モンスターはゲートから放たれた直後からこちらに向かってきているのだ。
『ホーリー・ランス!』
あっけにとられた佳純とユキのデュアル・インパクト無しにホーリーとラーレが術を発動させる。いくらかのモンスターは倒れたがかなりの数が残った。
『レイ!』
間髪いれずに後衛二人が術を放つ。が、それもデュアル・インパクト抜きでのホーリー・ランスをカバーするには至らない。
「フォトン!」
ラーレが次の魔法を放つ。力が分散される空間系魔法とは違い、力そのものを凝縮・放出するターゲットを絞った魔法に残ったうちの一体が倒れる。
ホーリーは小ぶりの赤い鉄球のついたメイスと円形の中型の盾を構えるとモンスターの群れに向かって飛び出していった。それを察した佳純とユキがホーリーに支援の魔法を次々かけていく。
「シャープネス」
「コンセントレート」
「アイスガード」
「レジスト」
ラーレも『力』を解放し鎌を手にホーリーに続いた。
「ブリューナクを、ですか」
サファイアの足元に、二人の少女が畏まって膝をつき頭をたれていた。
ひとりは茶髪で長い髪をそのままおろし、銀縁のめがねをかけていた。
もうひとりは長い後ろ髪に、横の髪は左右とも肩より少し上で切りそろえられ、それを束ねるように小さなリボンを身につけていた。
「あれはスカーレット家に伝わる秘宝。わたしにも権限がある…違うかしら?」
「それはそうですが…」
「お言葉ながら。今の所持者はあのルビー・J・スカーレット様。我々で奪取可能かどうか…」
二人が次々に答える。
「貴方達を解放するためにも、あの武器の力と2年前アルケニア城崩壊の時から行方知れずのアクアマリンを探し出さないといけない。大丈夫、わたしに策がある」
「私たちの…解放」
アイマスクをつけた方が畏まったままつぶやいた。
「そうよ。長らくスカーレット家とあのアクアマリンによって貴方達一族は縛られているわ。わたしの先祖との契約によって、ね」
サファイアが牢屋に幽閉状態であったとき、アルケニア王フリードリヒが手に入れたアクアマリンは『流水のアクアマリン』と言う代物で、精霊使いでなくとも水の精霊を支配・使役する事が可能なものだ。それは精霊王すら従える事が可能なほど強力な束縛を可能とする。
「私たちの一族は…純血はもう私、桜海(おうみ)とこの凛楓(りんか)しかおりません。恐らくサファイア様がご心配せずともお仕え出来るのも私たちで最後かと…」
「それでも。もし後の貴方達の子供や今世界に何人いるか知れない混血たちのうち先祖がえりを起こす人がこの先でるかもしれない。わたしはそれも避けたいの」
「…そこまでお考えとは。もうこの凛楓、何も申す事はございません」
「桜海も、最後までサファイア様へ付き添う決心がつきました」
今までより更に深く頭を下げる二人。
「そう。ありがと。じゃあ頼むわね」
その言葉を合図に、二人は部屋を出て行った。
「ルビー。わたしにはもっと必要なの、力が…」
けたたましいアナウンスが会場に響く。ユキ達は順当に勝ち抜き、最終戦へとたどり着いたのだった。事前に佳純が精神力持続・回復を促す薬草を準備してはいたものの、さすがに魔法の乱発はキツかった。
4人それぞれに疲弊の色が濃く出ている。だが無情にも休む暇もなくゲートが開かれ、倒すべきモンスターが現れた。「あれは…」19戦目までのモンスターに混じって一体見慣れないのがいた。いや、見慣れないと言うのは『モンスターの形状』をしていないと言う事で実際にはよくありふれた『人型』をしている。
「あれ…モンスターなの…?」
佳純の知識にも人型をとるモンスターはほとんど存在しない。せいぜい人型に具現化した暴走精霊くらいだったはずだ。
『その人型のももちろんモンスターです。これはわが国にある『深淵の洞窟』の最下層付近に生息する非常にレアなモンスターなのです』
4人の意思を察したかのようにアナウンサーが告げる。
「確かにあそこなら見たことない種もいるかも…」
「そんな悠長な事言ってる場合では!」
ホーリーが一喝する。モンスターはゲートから放たれた直後からこちらに向かってきているのだ。
『ホーリー・ランス!』
あっけにとられた佳純とユキのデュアル・インパクト無しにホーリーとラーレが術を発動させる。いくらかのモンスターは倒れたがかなりの数が残った。
『レイ!』
間髪いれずに後衛二人が術を放つ。が、それもデュアル・インパクト抜きでのホーリー・ランスをカバーするには至らない。
「フォトン!」
ラーレが次の魔法を放つ。力が分散される空間系魔法とは違い、力そのものを凝縮・放出するターゲットを絞った魔法に残ったうちの一体が倒れる。
ホーリーは小ぶりの赤い鉄球のついたメイスと円形の中型の盾を構えるとモンスターの群れに向かって飛び出していった。それを察した佳純とユキがホーリーに支援の魔法を次々かけていく。
「シャープネス」
「コンセントレート」
「アイスガード」
「レジスト」
ラーレも『力』を解放し鎌を手にホーリーに続いた。
「ブリューナクを、ですか」
サファイアの足元に、二人の少女が畏まって膝をつき頭をたれていた。
ひとりは茶髪で長い髪をそのままおろし、銀縁のめがねをかけていた。
もうひとりは長い後ろ髪に、横の髪は左右とも肩より少し上で切りそろえられ、それを束ねるように小さなリボンを身につけていた。
「あれはスカーレット家に伝わる秘宝。わたしにも権限がある…違うかしら?」
「それはそうですが…」
「お言葉ながら。今の所持者はあのルビー・J・スカーレット様。我々で奪取可能かどうか…」
二人が次々に答える。
「貴方達を解放するためにも、あの武器の力と2年前アルケニア城崩壊の時から行方知れずのアクアマリンを探し出さないといけない。大丈夫、わたしに策がある」
「私たちの…解放」
アイマスクをつけた方が畏まったままつぶやいた。
「そうよ。長らくスカーレット家とあのアクアマリンによって貴方達一族は縛られているわ。わたしの先祖との契約によって、ね」
サファイアが牢屋に幽閉状態であったとき、アルケニア王フリードリヒが手に入れたアクアマリンは『流水のアクアマリン』と言う代物で、精霊使いでなくとも水の精霊を支配・使役する事が可能なものだ。それは精霊王すら従える事が可能なほど強力な束縛を可能とする。
「私たちの一族は…純血はもう私、桜海(おうみ)とこの凛楓(りんか)しかおりません。恐らくサファイア様がご心配せずともお仕え出来るのも私たちで最後かと…」
「それでも。もし後の貴方達の子供や今世界に何人いるか知れない混血たちのうち先祖がえりを起こす人がこの先でるかもしれない。わたしはそれも避けたいの」
「…そこまでお考えとは。もうこの凛楓、何も申す事はございません」
「桜海も、最後までサファイア様へ付き添う決心がつきました」
今までより更に深く頭を下げる二人。
「そう。ありがと。じゃあ頼むわね」
その言葉を合図に、二人は部屋を出て行った。
「ルビー。わたしにはもっと必要なの、力が…」
chapter26:蝕まれた肉体
何とか残り一体までは倒せたが、その残った一体が非常に厄介だった。
「あのモンスター…光と聖なる物に対して耐性がついているみたいね」
肩で息をしながら佳純が分析をした。4人とも魔法を乱発しそうとう疲労している。空間に働く魔法を全員で10発は放ったのだがまるで傷ついているようには見えなかった。
ぶわっっ
彼女、と表現していいのかわからないがその人型のモンスターの足元に赤く光る魔法陣が出現した。
「いけない!回避を!!」
ホーリーが叫んだ。彼女の周りに無数の火の玉が生まれると、4人にめいめいに襲い掛かってきた。
『!!』
爆音と共に4箇所から土煙が上がる。
「くっ…」
ホーリーはかろうじて<中型特化盾>と<レジスト>の効果でダメージが浅くて済んだ。
(3人はどうなった…?)
片方の膝をつき、土煙が目に入らないよう目を細めてあたりを見回す。土煙の一角が晴れはじめると、鎌で自重を支えているラーレがいた。その後ろにはユキ、佳純がやはり片方の膝を着いていた。
「強い…」
ホーリーの見立てではもう既に自分も他の3人も戦闘する力は残っていない。
(なすがままになるか…?)
再度、『彼女』の足元に魔法陣が出現する。今度のは黒い光を放っていた。『彼女』が片手を高く掲げると 途端に『空気』に押しつぶされそうになった。
「ぐはっ」
強制的に地面に這い蹲らされる。
『きゃああああっっ』
黄色い悲鳴が響いた。ラーレ、佳純、ユキも同様に見えない力、若しくは空気の圧力を全身に受けているらしい。
「いけない…」
ぎしぎしと全身の骨が軋むような音を立てているのがわかる。気をしっかり保っていないとすぐさま意識を持っていかれそうになる感覚がこの場からの撤退を訴えかける。
(…痛い…苦しい…)
指一本動かせない圧力の中、ユキは隣に同じく圧力を受け倒れている佳純とラーレを 見る。ここからは見えないが多分ホーリーさんも同じだろうな、と考えをめぐらす。
(なんとか…なんとかしないと)
かろうじてラーレの持っていた鎌にまで指先を持っていく。その途端ーユキの全身が淡い光を放った。ぽうっと浮かび上がるように、蛍のような優しい光。光はとめどなくあふれたが、背中の中心あたりの左右2点に集約しだした。
ばさっ…
光は集約した場所から鳩の羽のような形を作りだす。さっきまでの高重力による圧力を無視するかのようにユキがゆっくりと立ち上がった。
「あなたに…やらせは…しないっっ」
今度はユキの量肩、両肘、両腿のあたりに集約しだす光。それはそれぞれの箇所で球形を生み出し、急速に膨れ上がった。
「お願い…」
計6つの光の玉はユキの胸の前に収束した。青白い小さな稲妻がぱちぱちとはねながら、互いに反発しあう事なく見事に融合され巨大な青白い球が出現した。
「い…っけぇ~…!」
ユキが気合をこめて両腕を思いっきり突き出すと、巨大な光の球は人型のモンスターに向かってまっすぐと、静かにだが素早く進んでいった。
『が…っ』
見事にクリーンヒットした球はそのままモンスターをひきずり、更なるダメージを与えた。幾度かHITした後、光の球は突然はじけ、会場に大きな光の柱が出現した。
『ぎゃぁぁぁあああ!!』
光の柱消滅と同時に、断末魔を残して一緒に消滅した。
『やった!やりました!見事20戦勝ち抜きおめでとう~~!!!!!』
術者の消滅と同時に術が解け、地面に倒れていた3人も起き上がった。
「ユキ…助かったわ」
「すごい力じゃない」
「最後の立役者になりましたねぇ」
口々にユキの先ほどの力について賞賛を送る3人。ユキはそれまでぼーっとしていたが、はっと我を取り戻すと、背中の『光の羽根』も拡散し宙へと消えた。
「え、えへ」
「ユキのおかげだよ」
「うん…よかっ…っ!!」
ユキの体に異変が起こった。全身に赤い筋が現れ、激痛が全身を襲った。
「ああああああっ!!」
膝をがっくりと落として頭を抱え苦しみだすユキ。
「ユキ?ちょっとユキどうしたの!?」
ラーレの言葉もむなしく、激痛に耐えられなかったユキはその場で気を失ったのだった。
「あのモンスター…光と聖なる物に対して耐性がついているみたいね」
肩で息をしながら佳純が分析をした。4人とも魔法を乱発しそうとう疲労している。空間に働く魔法を全員で10発は放ったのだがまるで傷ついているようには見えなかった。
ぶわっっ
彼女、と表現していいのかわからないがその人型のモンスターの足元に赤く光る魔法陣が出現した。
「いけない!回避を!!」
ホーリーが叫んだ。彼女の周りに無数の火の玉が生まれると、4人にめいめいに襲い掛かってきた。
『!!』
爆音と共に4箇所から土煙が上がる。
「くっ…」
ホーリーはかろうじて<中型特化盾>と<レジスト>の効果でダメージが浅くて済んだ。
(3人はどうなった…?)
片方の膝をつき、土煙が目に入らないよう目を細めてあたりを見回す。土煙の一角が晴れはじめると、鎌で自重を支えているラーレがいた。その後ろにはユキ、佳純がやはり片方の膝を着いていた。
「強い…」
ホーリーの見立てではもう既に自分も他の3人も戦闘する力は残っていない。
(なすがままになるか…?)
再度、『彼女』の足元に魔法陣が出現する。今度のは黒い光を放っていた。『彼女』が片手を高く掲げると 途端に『空気』に押しつぶされそうになった。
「ぐはっ」
強制的に地面に這い蹲らされる。
『きゃああああっっ』
黄色い悲鳴が響いた。ラーレ、佳純、ユキも同様に見えない力、若しくは空気の圧力を全身に受けているらしい。
「いけない…」
ぎしぎしと全身の骨が軋むような音を立てているのがわかる。気をしっかり保っていないとすぐさま意識を持っていかれそうになる感覚がこの場からの撤退を訴えかける。
(…痛い…苦しい…)
指一本動かせない圧力の中、ユキは隣に同じく圧力を受け倒れている佳純とラーレを 見る。ここからは見えないが多分ホーリーさんも同じだろうな、と考えをめぐらす。
(なんとか…なんとかしないと)
かろうじてラーレの持っていた鎌にまで指先を持っていく。その途端ーユキの全身が淡い光を放った。ぽうっと浮かび上がるように、蛍のような優しい光。光はとめどなくあふれたが、背中の中心あたりの左右2点に集約しだした。
ばさっ…
光は集約した場所から鳩の羽のような形を作りだす。さっきまでの高重力による圧力を無視するかのようにユキがゆっくりと立ち上がった。
「あなたに…やらせは…しないっっ」
今度はユキの量肩、両肘、両腿のあたりに集約しだす光。それはそれぞれの箇所で球形を生み出し、急速に膨れ上がった。
「お願い…」
計6つの光の玉はユキの胸の前に収束した。青白い小さな稲妻がぱちぱちとはねながら、互いに反発しあう事なく見事に融合され巨大な青白い球が出現した。
「い…っけぇ~…!」
ユキが気合をこめて両腕を思いっきり突き出すと、巨大な光の球は人型のモンスターに向かってまっすぐと、静かにだが素早く進んでいった。
『が…っ』
見事にクリーンヒットした球はそのままモンスターをひきずり、更なるダメージを与えた。幾度かHITした後、光の球は突然はじけ、会場に大きな光の柱が出現した。
『ぎゃぁぁぁあああ!!』
光の柱消滅と同時に、断末魔を残して一緒に消滅した。
『やった!やりました!見事20戦勝ち抜きおめでとう~~!!!!!』
術者の消滅と同時に術が解け、地面に倒れていた3人も起き上がった。
「ユキ…助かったわ」
「すごい力じゃない」
「最後の立役者になりましたねぇ」
口々にユキの先ほどの力について賞賛を送る3人。ユキはそれまでぼーっとしていたが、はっと我を取り戻すと、背中の『光の羽根』も拡散し宙へと消えた。
「え、えへ」
「ユキのおかげだよ」
「うん…よかっ…っ!!」
ユキの体に異変が起こった。全身に赤い筋が現れ、激痛が全身を襲った。
「ああああああっ!!」
膝をがっくりと落として頭を抱え苦しみだすユキ。
「ユキ?ちょっとユキどうしたの!?」
ラーレの言葉もむなしく、激痛に耐えられなかったユキはその場で気を失ったのだった。
chapter27:少年の決意
すぐさまユキは病院へと搬送されたが半日たった今でも昏睡状態を脱せずにいた。佳純にも、病院の医者にもはっきりとした原因は不明だった。赤い筋が消えた今は落ち着いて眠っているようにも見える。
「なんだったの、あれは…」
佳純が率直な感想を述べた。闘技の影響で半ばパンク状態だった医者を今まで手伝っていた彼女がユキの病室へと入ってきたのはつい今しがただ。
「わたしの眠りの魔法が効いているのか寝顔は穏やかに見えます…しかし」
「今後、どうなるかはわからないといったところかしらね」
「ええ…残念ながら」
そういうとホーリーが部屋を後にした。佳純と交代で医者の手伝いを約束していたからだ。
ドン!
病室の壁をリーシェルが思い切り殴った。
「全部アイツだ…アイツがあんな態度を取るから…」
土壁にめり込んだ左の拳からかすかに血を流しながら険しい顔をしてリーシェルが言い放った。
「馬鹿ね。そんな事してもどうにもなるものでもないわ」
「けど…っ」
佳純が借り物の白衣のポケットにあった包帯を取り出すと部屋の片隅においてあった消毒液を持ってリーシェルの拳を介抱した。
「あなた…もしかしてユキちゃんを…」
包帯を巻きながら佳純がカンをそのまま述べた。
「ち…っ違う!誰だって友人があんな事言われたら頭に来るだろうが!」
あぐらを書いて左腕を佳純に差し出している格好そのままに、わざとらしくそっぽを向くリーシェル。
(あらあら)
あの時の涙にほだされたのかしらね、と佳純は思いつつ包帯を巻き終えた。
「はい、終わり。まだ大会に出る身なんだからもっと考えて行動しなさいな」
「ありがとっ」
むすっとしているが少し照れたような声でお礼を言うと、リーシェルはそのまま部屋を後にした。
「…佳純さん、あんまりからかっちゃ駄目よ?年頃なんだから」
ラーレが今まで堪えていた笑いを耐え切れなくなって忍び笑いを漏らしつつ言った。
「だって可愛いじゃない?それに…少なくともわたしもあなたも感じたことを素直に代弁してくれているわ」
「そうね…何か考えあっての事だとは思うけど」
あたしは目の当たりにしたわけじゃないしね~とラーレは大きく伸びをした。
「さて、眠り姫様を起こせるのはどの王子様かしらね」
「賭ける?」
「やめとく。お姫様の気持ちわかっちゃってるし賭けにならないわ」
「じゃあ、ラーレさん悪いけど後お願いできるかしら」
「佳純さんは?」
「スカーレット家の別荘の書庫よ。ユキちゃんの症状についても調べたいし」
「わかった。皆には言っておくわ」
「お願いね」
佳純は白衣を脱ぎ部屋の椅子の背もたれにかけると部屋を去っていった。
佳純が出て行くとラーレは近くにあった椅子に腰掛け、ユキの寝顔を眺めた。
「あの時…確かにあたしの鎌に…」
ユキが天使の羽根を生やす直前。確かにユキの指先が自分の鎌に触れたのがわかった。あの大鎌はラーレの力によって具現化されている、『ラーレの中にある武器』のイメージそのものであり、それは同時に自分の身体と同様の存在である。特に考える事なく振るう事が出来るし、重さを感じる事もない。それに…鎌の先から風や触った相手の体温まで感じ取る事が出来た。
「と、すると。ユキに力を授けたのって…」
天使か悪魔。そのどちらかである可能性が高い。光系の攻撃魔法や補助系の魔法を使えるところをみると、十中八九の確率で天使だろう。この2年の間、ラーレはラーレなりに自分の力について考え、使用出来る場面では使用して、使いこなせるようにと努力はしたつもりだった。元々修道女だった彼女にとって『悪魔の力も』体内に宿しているかもしれない事実は少々戸惑いを感じさせてはいたが何より2年という歳月の努力によって逆に『そうかもしれない』と思わせられる部分もあった。何より自分の武器のイメージが大きな鎌であること事態がそれを物語っているようにも思える。そんな事を取りとめも無く考える。
「話つけてきたよ」
どれくらい時間がたったのか、物思いにふけっているラーレにはわからなかったが静かに扉が開くと、リーシェルが戻ってきた。
「話?」
ラーレが聞き返した。
「エメラルド王に会ってきた。んで、もし僕が優勝したらルビーとユキちゃん二人きりで話する場を設けるって事にしてきた」
閉めた扉にもたれて平然と言い放つリーシェル。
「ちょっとちょっと。そんな難しい事…」
ラーレにだってそれがどんなに困難さを伴うかは容易に理解できる。優勝なんて…確かに今までリーシェルは余裕で相手を倒してこれてはいるが準々決勝ともなるとそうもいくまい。ほかにもリーシェルと同じように無傷で勝ち残っている選手は数人いるのだ。
「やるよ、僕。やらなくちゃいけない…そんな気がする」
(おやおや…)
ラーレにもその根底にある情が友情なのか愛情なのか判定はできなかったが、今までほとんどやる気を見せなかったリーシェルがここまでやる気を出してみせるのは良い傾向なのかな、と思った。
「なんだったの、あれは…」
佳純が率直な感想を述べた。闘技の影響で半ばパンク状態だった医者を今まで手伝っていた彼女がユキの病室へと入ってきたのはつい今しがただ。
「わたしの眠りの魔法が効いているのか寝顔は穏やかに見えます…しかし」
「今後、どうなるかはわからないといったところかしらね」
「ええ…残念ながら」
そういうとホーリーが部屋を後にした。佳純と交代で医者の手伝いを約束していたからだ。
ドン!
病室の壁をリーシェルが思い切り殴った。
「全部アイツだ…アイツがあんな態度を取るから…」
土壁にめり込んだ左の拳からかすかに血を流しながら険しい顔をしてリーシェルが言い放った。
「馬鹿ね。そんな事してもどうにもなるものでもないわ」
「けど…っ」
佳純が借り物の白衣のポケットにあった包帯を取り出すと部屋の片隅においてあった消毒液を持ってリーシェルの拳を介抱した。
「あなた…もしかしてユキちゃんを…」
包帯を巻きながら佳純がカンをそのまま述べた。
「ち…っ違う!誰だって友人があんな事言われたら頭に来るだろうが!」
あぐらを書いて左腕を佳純に差し出している格好そのままに、わざとらしくそっぽを向くリーシェル。
(あらあら)
あの時の涙にほだされたのかしらね、と佳純は思いつつ包帯を巻き終えた。
「はい、終わり。まだ大会に出る身なんだからもっと考えて行動しなさいな」
「ありがとっ」
むすっとしているが少し照れたような声でお礼を言うと、リーシェルはそのまま部屋を後にした。
「…佳純さん、あんまりからかっちゃ駄目よ?年頃なんだから」
ラーレが今まで堪えていた笑いを耐え切れなくなって忍び笑いを漏らしつつ言った。
「だって可愛いじゃない?それに…少なくともわたしもあなたも感じたことを素直に代弁してくれているわ」
「そうね…何か考えあっての事だとは思うけど」
あたしは目の当たりにしたわけじゃないしね~とラーレは大きく伸びをした。
「さて、眠り姫様を起こせるのはどの王子様かしらね」
「賭ける?」
「やめとく。お姫様の気持ちわかっちゃってるし賭けにならないわ」
「じゃあ、ラーレさん悪いけど後お願いできるかしら」
「佳純さんは?」
「スカーレット家の別荘の書庫よ。ユキちゃんの症状についても調べたいし」
「わかった。皆には言っておくわ」
「お願いね」
佳純は白衣を脱ぎ部屋の椅子の背もたれにかけると部屋を去っていった。
佳純が出て行くとラーレは近くにあった椅子に腰掛け、ユキの寝顔を眺めた。
「あの時…確かにあたしの鎌に…」
ユキが天使の羽根を生やす直前。確かにユキの指先が自分の鎌に触れたのがわかった。あの大鎌はラーレの力によって具現化されている、『ラーレの中にある武器』のイメージそのものであり、それは同時に自分の身体と同様の存在である。特に考える事なく振るう事が出来るし、重さを感じる事もない。それに…鎌の先から風や触った相手の体温まで感じ取る事が出来た。
「と、すると。ユキに力を授けたのって…」
天使か悪魔。そのどちらかである可能性が高い。光系の攻撃魔法や補助系の魔法を使えるところをみると、十中八九の確率で天使だろう。この2年の間、ラーレはラーレなりに自分の力について考え、使用出来る場面では使用して、使いこなせるようにと努力はしたつもりだった。元々修道女だった彼女にとって『悪魔の力も』体内に宿しているかもしれない事実は少々戸惑いを感じさせてはいたが何より2年という歳月の努力によって逆に『そうかもしれない』と思わせられる部分もあった。何より自分の武器のイメージが大きな鎌であること事態がそれを物語っているようにも思える。そんな事を取りとめも無く考える。
「話つけてきたよ」
どれくらい時間がたったのか、物思いにふけっているラーレにはわからなかったが静かに扉が開くと、リーシェルが戻ってきた。
「話?」
ラーレが聞き返した。
「エメラルド王に会ってきた。んで、もし僕が優勝したらルビーとユキちゃん二人きりで話する場を設けるって事にしてきた」
閉めた扉にもたれて平然と言い放つリーシェル。
「ちょっとちょっと。そんな難しい事…」
ラーレにだってそれがどんなに困難さを伴うかは容易に理解できる。優勝なんて…確かに今までリーシェルは余裕で相手を倒してこれてはいるが準々決勝ともなるとそうもいくまい。ほかにもリーシェルと同じように無傷で勝ち残っている選手は数人いるのだ。
「やるよ、僕。やらなくちゃいけない…そんな気がする」
(おやおや…)
ラーレにもその根底にある情が友情なのか愛情なのか判定はできなかったが、今までほとんどやる気を見せなかったリーシェルがここまでやる気を出してみせるのは良い傾向なのかな、と思った。
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